『産経新聞』2008年3月15日付

【提言ニッポン】NEC会長 佐々木元氏 国際競争力ある理工系人材を


−−理工系人材育成の必要性が叫ばれて久しい

「技術者・研究者個人として国際競争力のある人材をいかに育てるかにつきる。とくに理工系分野は、世界的に技術革新が激しく、ソフトウエアの比重が高まり、技術のブラックボックス化が進んでいる」

「技術者・研究者は中身に直接触れる機会を持ち、リアル(現実)の世界とバーチャル(仮想)の世界を見極めていかねばならない。学校教育だけでなく、社会に出てからも常に進歩していく熱意を持って自己研鑽(けんさん)し、自らの力をより高めていく。また、それを支援していく仕組みが必要だ」

−−とくに学校教育と社会との接点となる大学・大学院のあり方が問われている

「国立大学が独立法人化され、自由度を増したが、トップ水準の教育こそ国立大学の役割であり、その責任は重い。それぞれの大学は特徴ある教育を行うことが重要で、カリキュラムなどは違っていいし、すべての大学が理工分野をカバーする必要もない」

−−科学に興味を持った幼児も、小・中・高と進学するにつれて理工系から離れていく

「そうならないようにするには高校と大学との整合性、接点のあり方が重要で、大学入試改革が必要だろう。大学受験のために、高校で物理や化学を選択しないようになってはいけない。理工系の入試では基礎的な物理、化学、生物のうち2科目は必須にすべきだ」

−−NECが求めるイノベーション(技術革新)人材とは

「急速に発展する科学技術になじみ、新事業を興すのに効果的な人材。30年以上勤めるわけだから、成長とともに仕事のやり方などの変化を適切に見極め、必要な施策を打ち出せる感性や適合性、順応性、指導力、管理運営能力などを身につけた人材。大学でリベラルアーツ(教養)を培い、それを自らの財産として持つことが必要だ」

−−国際競争の激化で企業内の人材研修も変わってこざるをえない

「確かに、従来とは時間の刻まれ方が大きく変わった。人間の体内時計はそう変えるわけにいかず、その不適合をどうするかが、理工系人材の国際競争力に行き着く」

「次世代ネットワーク(NGN)事業が今まさに、大きく広がろうとしている。会社としてそれをどう発展させていくか、全体像を描く中で自らの問題解決法を位置づけていく。自ら流れを作り出せる人材の確保が非常に重要だ」

ささき・はじめ 東大大学院数物系研究科修士課程修了。昭和36年日本電気(NEC)入社。取締役、常務、専務、副社長を経て、平成11年から現職。71歳。東京都出身。