『毎日新聞』愛知版2008年3月10日付

来月、愛教大学長に就任・松田正久さん


全国87の国立大学が04年4月から国立大学法人となって4年。各大学とも国立大学時代とは根本的に異なる環境下で、財政面などに厳しい運営を強いられている。特に、地方の大学や単科大学にその傾向が目立ち、刈谷市にある教員養成の単科大学・愛知教育大もその一つ。今日のさまざまな教育問題を抱えながら、グローバル化や高度情報化の変革も強く迫られている。しかも、教師の質を高めるため、4月に全国19大学で発足する教職大学院の設置大学でもあるのだ。4月に愛知教育大の学長に就任する松田正久・理事兼副学長(60)に現状や課題を聞いた。【安間教雄】

◇教師の誇りを若者に−−子供たちに夢を与えることが教育

−−厳しい状況下での学長就任の決意は。

愛教大の理念や使命などを掲げた大学憲章を大学運営の根本に据え、使命実現に向けて全学の先頭に立つ。大学と教育現場、大学と地域社会・産業界との連携協力を強く図り、存在感のある個性的な大学づくりを進めていく。自然に恵まれた広大なキャンパスをもっと有効に活用し、地球環境時代の若者が学ぶのに最適の大学であることも大いにPRしたい。

−−国立大学法人化を契機に、大学運営の効率化や競争原理が一段と強まったが……。

最も危惧(きぐ)するのは、国の運営費交付金を各大学の研究成果に基づいて配分しようという計画。成果主義の導入で大学の国際競争力をつける狙いだが、地方の教員養成大学など、なじまない大学を無視した考えだ。愛教大への交付金は、全収入の3分の2を占める必要最低限の費用。国際競争力だけで支給額が左右されてはたまらない。何よりも、文化や基礎科学の発展に寄与する大学本来の「知の創造」の視点が欠落していよう。

−−しかし、国立大学時代の運営には批判も少なくなかった。

もちろん、大学にも多くの反省点があり、各大学で全学的な改革を強力に推進中だ。愛教大もこの4年間で運営を見直し、全体の約5%に当たる30人余りの教職員を削減した。今後も教育研究や財政、労働などの改革を続けていく。

−−法人化で目立つのが「地域社会に開かれた大学」だ。

もはや地域社会とともに歩む大学でなければ存立にも響き、地元への貢献が大学の大事な役割になった。地元の刈谷市や愛知県、近隣自治体、企業などと協定を結び、愛教大の教育や研究の成果を地域社会に積極的に発信したい。すでに、地元住民への天文台の開放やイベントへの招待などを手がけており、増やすことが今後の課題だ。

−−4月開設の教職大学院の目的は。

グローバル化や高度情報化で人間とか教育の重要性が一段と高まり、より高度な教育を求める時代の要請に応える狙い。しかし、ただ単に教え方や実践力を高めるのではなく、あくまで人間や教師としてのあり方を磨くことに重点を置く。教育の本質が技術より人間そのものによるところが大きいからだ。

−−教育大学にとって今の課題は何か。

どの時代も多くの教育問題を抱えており、あること事態は気にしていない。ただ、教育現場のマイナス面ばかりが強調され、若者に教師への魅力が薄れていることが心配だ。教育とは「人を人に育てること」であり、子供たちに夢を与えることだと思う。そこに教師の生きがいや誇りがあり、それをどう若者に伝えていくかだろう。

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■人物略歴

◇まつだ・まさひさ

60歳。1948年、島根県生まれ。70年に名古屋大理学部を卒業し、76年に広島大大学院理学研究科博士課程(物理学専攻)を修了。愛知教育大には77年から勤務し、助手、講師、助教授を経て、91年に教授。オーストラリアとスウェーデンの大学で研究に取り組む。学長補佐の後、04年から理事・副学長。