『読売新聞』岩手版2008年3月7日付

岩手大が牛乳販売中止 ジャージー種飼育取りやめで
独立行政法人化でリストラ


岩手大学は、付属施設の滝沢農場(滝沢村)で行っているジャージー種の乳牛飼育を今月で取りやめることを決めた。大学の独立行政法人化により、予算と人員の削減が進んだことが原因。放し飼いされた牛から搾る濃厚な牛乳は、固定客が付く人気商品になっていただけに、惜しむ声も上がっている。

滝沢農場では現在、茶色のジャージー種の乳牛29頭を飼育している。1年を通して屋外で育てており、夏は牧場で草をはみ、冬は国産の大豆やデントコーンなどが与えられる。「搾乳のため、建物の扉を開けると、外にいた牛たちは勝手に集まってきて、決まった場所に入っていく。人なつっこくて、賢い」と飼育担当の赤坂茂・技術専門職員は牛をなでた。

農場では以前、ホルスタイン種の乳牛を飼っていたが、品種改良で体が牛舎からはみ出すようになったことなどから、2003年からは比較的小柄なジャージー種に切り替えた。

乳脂肪分が多く、濃厚な味わいの牛乳が特徴。「珍しいジャージー種を放牧し、牛乳に付加価値を付けて販売するモデルケースにしたかった」。岡田啓司准教授は、ジャージー種の導入を決めた理由を説明する。

しかし、04年に岩手大が国立大学法人となったことで、事情が変わってきた。大学職員に労働基準法が適用されるようになり、週末には搾乳のヘルパーを雇わなければならなくなった。人件費を除く大学の予算が毎年1%ずつ減少する上に、人件費の削減も決まり、農学部では07年度から5年間で、5人の職員削減を行う計画になっている。

一方、牛乳の販売額は年間約800万円(06年度)。これに対し、ヘルパー代は350万円で、餌代を加えるとほぼ消えてしまう。乳牛飼育にあたる常勤職員3人の人件費はとても賄えない。さらに、牛舎の老朽化も進んでいたこともあり、飼育を取りやめることにした。乳牛は県内の農場に引き取られる。

岩手大学生協では、ジャージー種の牛乳を、「岩手大学の自然放牧牛乳」として、720ミリ・リットル入りの瓶で500円で販売していた。週1回の入荷で、12日が最後の入荷日になる。宍戸研常務理事は「教員や学生の固定客が付いていただけに残念」と話す。