『日刊工業新聞』2008年3月1日付

文科省、大学に自立促す−知的財産本部整備事業が来月終了


文部科学省の知的財産本部整備事業が3月で終了し、08年度から「産学官連携戦略展開事業」が始まる。支援継続の配慮を求める旧事業採択校に対し、文部科学省は「新事業採択が決まるのは初夏、4―6月分の人件費支出は各大学で」と、自立が前提だと念を押す。安定した病院収入を持つ山梨大、国の支援分はもともと2割未満の東京大などは、旧事業分も大学が引き受けることを早々に決めている。新事業の応募締め切りまで1カ月。もう迷っている時間はない。(編集委員・山本佳世子)

東京・霞が関の文部科学省で先週、開かれた産学官連携戦略展開事業の説明会では、今いる知財スタッフの人件費で質問が相次いだ。これに対し文科省側は「必要と思われる人材は各大学の判断で措置を」と“最後通告”を行った。旧事業費のうち人件費は約7割に上るだけに、「自立できていない大学を“ふるい落とす”らしい」(採択校の関係者)といううわさは本物だったようだ。

新事業応募の区分は(1)国際活動(2)特色ある活動(3)知財の基盤強化―で、支援額や期間は(1)から順に小ぶりになる。旧事業採択大学は(3)を選べず、(1)の資金は国内の産学官連携に使えない。応募書類には学内合意に基づいた資金計画も必要だ。そのため、(1)は学内予算での基盤維持が決まったトップ校、(3)は旧事業とは縁がなかった“発展途上校”、(2)はそれ以外―となりそうだ。「産学官連携も研究重視、地域貢献など各大学の役割分化と歩調を合わせ、人事や経理と同じ大学1部門の位置を確保してほしい」と文科省の小谷和浩技術移転推進室長は強調する。

旧事業の終了に向け、先進大学では年明け前後に「文科省の支援分を学内支出に移し、人件費を含め予算を維持したうえで、新事業を取りに行く」(東京大学・山田興一理事)形を固めた。一方で新事業への依存心が高く、方針決定が遅れた大学も多い。年末の東大の担当者公募には、契約更新が見えず、しびれを切らして応募した他大学知財本部の若手もいた。大幅な活動縮小がささやかれる旧帝大もある。

【東大・山梨大は学内予算で】

山梨大学が旧事業からの5000万円分を学内支出にする決定をしたのは07年10月と早かった。同大は中規模大だが病院の財務状況が国立大トップクラス。「病院が余裕を生み出しているので、学長が『続けるぞ』と宣言するだけだった」と貫井英明学長は説明する。今年度で契約が切れる若手知財マネジャー2人は学長裁量枠で有期ではない「助教」に転換。会社型TLOも解散し4月から機能を大学で引き継ぐ。

横浜国立大学も新年度から、旧事業費の3000万円分を、これまでの学内予算4000万円に加えて用意する。渡辺慎介理事・副学長は「技術移転など知的財産活用による収入2000万円は、2―3年後には4000万円にできる」(渡辺副学長)といい、これも学内理解の1材料になった。そのために担当者を企業や自治体との折衝にたけた人材に代える。手始めの教授一人のポストには、50数人から応募がきているという。

最大規模の東京大学の場合、産学連携本部の年間予算は約7億円になる。財源は学内からが3億1000万円、産学の共同・受託研究費からが1億1000万円。旧事業からは1億3000万円で「7億円のうちのこれくらいなら」(山田理事)と学内でも異論が出にくかった。東大同本部はみずほ総合研究所、東京証券取引所などと産学官連携手法の共同研究を手がけ、本部独自の収入があるのも強みだ。

実は旧事業は途中で国際の新予算が加わったり、中間評価後に支給差がついたりし、1機関の支援は年1100万―2億円とかなり開きがある。旧事業の20数大学のヒアリングでは支援継続の訴えとともに、「大学自らすべきものと経営側に認めさせるチャンス」「国への依存体質を変えなくては」と積極的な声が聞かれた、と文科省はいう。施策に反映させたのは、その前向きな姿勢の方だった。新事業の応募締め切りは3月28日。各大学の計画策定は佳境に入っている。