『北海道新聞』社説 2008年3月2日付

検体無断提供 旭川医大の責任は重い


これが医療機関のやることだろうか−。

旭川医大病院臨床検査・輸血部が、患者から採取した検体を製薬会社に無断提供していたことが明らかになった。患者名などの個人情報が、大量に外部に渡ったことも分かった。

ずさんな検体管理と、患者のプライバシー配慮の欠落に暗然とする。

自分の知らない間に検体が使われ、個人情報まで漏れるのでは、患者は安心して医療を受けられない。

旭川医大は再発防止策をつくり、着実に実行する責務がある。それができないなら医療機関の名に値しない。

検体には、ウイルス感染の有無などのさまざまな情報が含まれている。医療機関が、最も厳重に管理しなければならないものだ。

厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」は、検体の提供は患者の同意を得て、匿名性を担保したうえで行うことと定めている。

患者に無断で提供されたのは、エイズウイルス(HIV)の感染が疑われる人や梅毒患者から採取した血清など約二千六百の検体だ。

とくに梅毒感染の血清検体では、患者名や性別、年齢、検査データなどの情報も合わせて渡していた。

病院側は「うっかりしていた」と釈明している。他人に知られたくない情報を漏らされた患者の痛みを、病院側は分かっているのだろうか。

日本病理学会は、検体を外部提供する際に、病院内の倫理委員会で審議するよう求めている。しかし病院内で、提供の是非や方法について十分に審議された形跡はない。

HIVや梅毒の検体は、二次感染の恐れもある。これを防止するため、環境省は「感染性廃棄物」として慎重に取り扱うよう医療機関に求めている。

検体の無断提供は、この規定を軽視するものだ。病院は、二次感染の危険をどう考えているのだろう。

見逃せないのは、製薬会社から大学側に三百八十五万円の「寄付金」が渡っていたことだ。

寄付は大学長あてで、大学側は「医学研究の助成が目的だ」と説明している。臨床検査部門の職員の出張費に使われた。検体提供の見返りだったと見られても当然だろう。

文部科学省は、公的研究費を厳格に管理する「実施基準」を定め、研究開発をめぐる大学研究者と業者の癒着を防ごうとしている。

寄付を受けた理由と使途について、大学側の詳細な説明が聞きたい。

旭川医大では昨年七月にも同様の問題が明らかになった。当時、病院側は「ほかにはない」と言明していた。

当時の内部調査が不十分だったことは明白だ。関係者が事実を隠ぺいしようとしたなら許されることではない。大学は襟を正さねばならない。