『科学新聞』2008年2月1日付

国立大学の特色数値化


競争的資金は年々増え続けているが、一方では運営費交付金は減り続けている。そうした中で、基盤的資金と競争的資金とのウェルバランスについては、総合科学技術会議や各審議会等でも検討するよう指摘されているが、本質的な議論はあまり行われてこなかった。そのベースとなる基礎的な情報が不足しているため、共通認識を持てなかったためだ。科学技術政策研究所は、国立大学の財務諸表や業務報告書、論文・特許データベースなどから、各大学は、研究、教育、社会貢献のいずれを重視しているのかを、クラスター分析で明らかにした。今回の調査によって、いよいよ本格的な議論のベースができてきた。

大学の機能を大きく分けると、教育、研究、社会貢献があり、各大学とも自らの特色を活かした活動を行っていくことが求められている。しかしこれまで、各大学がどこに予算を投資し、結果的にどのような機能が強くなっているのかを比較評価した例はなかった。

今回の調査では、各国立大学法人の財務諸表、業務報告書から、運営費交付金収益、施設費収益、自己収入(授業料、入学金、病院収入など)、外部資金関係収入(寄付金、補助金等)、業務費(教育・研究・診療経費など)、人件費、一般管理費、財務費、科学研究費補助金、学生・教職員数、業務実施コストなどを抽出した。

運営費交付金が経常収益に占める割合が高いのは、大学院大学、教育大学、文科系中心大学の順になっており、低いのは、医科系大学と中規模大学で、87大学の平均は41%。また病院収入を含まない自己収入の割合が高いのは、文科系中心大学と中規模病院無大学。附属病院を持っている大学のうち、病院収益が経常収益に占める割合が最も高いのは、医科大学で55.1%、交付金依存率は約30%だった。外部資金と科研費収入の割合が高いのは、大学院大学、理工系中心大学、大規模大学で、教育系大学、文科系大学は外部資金等比率は僅少であり、外部資金が多少増加しても、法人経営を支えるほどにはならない。

また、教育では教育経費率、教員あたり学生数、学生あたり教育経費、研究では研究経費率、教員あたり博士課程学生数、教員あたり研究経費、論文数、特許公開件数、社会貢献では国等以外の受託事業費及び寄付金収益という指標を使って、クラスター分析を行ったところ、全国立大学を10のクラスターに分類することに成功した。

1グループは、教育と研究の2つに特色を見出している大学。教育に対する偏差値が42〜56、研究に対する偏差値が45〜55。2グループは、研究を中心に大学の機能を分化している大学だが、研究に対する偏差値が55〜60と高くなっている。3グループは、2グループよりも、さらに研究に特化している大学であり、いわゆる研究大学という位置づけになるだろう。

4グループは、社会貢献度が高い大学で、社会貢献の偏差値は60を超えているが、教育、研究は50以下の大学が多い。5グループは、4グループよりさらに社会貢献度が高いグループであり、社会貢献の偏差値は80を超えている。6グループは、1グループと同じく、教育と研究の2つに特色を見出している大学である。総合研究大学院大学のみとなっているが、教育の偏差値は89.1で89大学中1位、研究の偏差値も61.8と9位になっている。

7グループは、教育にやや特化しているグループである。8グループは、教育・研究・社会貢献の偏差値の間で最も差がない、つまりバランスが取れている大学である。9グループは、8グループより教育・研究の偏差値が高く、社会貢献の偏差値がやや低い大学だが、8グループに続いて教育・研究・社会貢献のバランスが取れている大学。10グループは、5グループ、4グループに続いて、社会貢献に特化している大学で、偏差値が55前後。

研究の偏差値が高い、2、3グループは、結果的に基盤的資金に対する外部資金の割合も非常に高い大学のグループになっている。つまり、研究を強く推進しようとしたら、外部資金の獲得が不可欠であることが分かる。また、社会貢献の偏差値が高い大学、教育の偏差値が高い大学は総じて外部資金割合は少ない。こうしたことから、教育と研究は負の相関関係にあることがわかる。

教育、研究、社会貢献、それぞれの偏差値が50に近い値前後でバランスをうまくとっているグループは、基盤的資金に対する外部資金等の割合が0.2〜0.4前後である。調査を行った治部眞里研究員は「外部資金割合が0.2未満の場合は、何らかの機能に特化していかなければ、経営は厳しくなりそうだ」と指摘している。

今回の分析結果により、次の中期計画期間中における運営費交付金の算定ルールや、第4期科学技術基本計画における大学の位置づけなどを議論するためのベースができたことになる。今後、総合科学技術会議などでの議論に注目が集まる。