『中国新聞』社説 2008年2月25日付

大学の地域連携 協働の芽はぐくみたい


大学と地域の間に、新しいパートナーシップが生まれる契機になりそうだ。広島大をはじめ中国地方の大学が自治体と、幅広い分野にわたる連携協力の協定を結ぶ動きが活発化している。

まちづくりなどの地域活性化や産業振興、自然環境保護に、大学が培ってきた知の資源や豊富な人材を役立てようとする点では、ほぼ共通している。一足先に定着している産学連携と相まって、社会に開かれた大学を目指すもう一つの試みとしての期待も大きい。

今月初め、東広島市の広島大キャンパスで開かれた「北広島のおいしい水を食べるフェア」。ありきたりのご当地PRイベントではない。二〇〇六年十一月に広島大と広島県北広島町が交わした「包括的連携協力協定」に基づくプロジェクトの一環である。

豊かな水で育てた地元産コシヒカリのご飯やパン、どぶろく、アマゴの塩焼き…。町と商工会が贈った地域通貨が利用できる販売ブースには、千五百人を超す学生、職員が詰め掛けた。手弁当で参加した町民と学生がたき火を囲み、田舎談議に花を咲かせる光景もあった。

「半信半疑だったが、若者に受け入れてもらえて感動した」「ご飯の味がこんなに違うと思わなかった」「ぜひ農家体験をしたい」―。アンケート結果に表れた町民や学生の反応は、すこぶる良かったという。お互いの顔と顔が見える交流が、満足感につながったことがうかがえる。

プロジェクトは「水の世紀を生きる」と銘打っている。水源地域の北広島町と水の受益者でもある広島大の間に、人や資源、情報が循環するシステムづくりを掲げる。

生物圏科学、総合科学、国際協力などの研究者が参加。町内からも地域自立支援に取り組む民間団体メンバーが窓口になって、研究やイベントを進めている。

地域研究を大学が手掛けること自体は、さして珍しくはない。しかし、多くの場合、地域は研究データを集める場所(フィールド)でしかなかった。それだけに、包括協定や地域貢献研究という形で、地域への「知の還元」をメーンに打ち出した姿勢は大いに歓迎したい。

双方向の関係を築くには、どうすればいいか。自治体や住民が「研究してもらう」「アドバイスをお願いする」という受け身の立場に甘んじていては、一方向の関係は変わらない。住民サイドからも、積極的な問題提起が必要になる。

知恵を借りるメリットがあるのは、地域だけではない。大学にとっても、専門分野の垣根を越えて地域にかかわることで、新しい研究の芽やアイデアも生まれてくるはずだ。いまだに根強いとされる研究者同士の縄張り意識を打ち破る可能性も秘めている。

水をキーワードにした広島大と北広島町のプロジェクトでは、大学の水質環境調査に地元の中学生らが協力した。研究者と住民がつながり合うネットワークが生まれ始めている。一つのモデルケースだろう。

地域と大学は運命共同体ともいえよう。連携を根付かせるために、しっかり知恵を絞りたい。