『読売新聞』2008年2月24日付

「博士」採用に企業が二の足、九州大もイメージなどで苦労


大学院で博士号を取得しても定職に就けず、不安定な身分で研究を続けるポスドク(ポストドクター、任期付き研究員)が増えている。九州大はポスドクらの就職支援に力を入れているが、「専門的で視野が狭い」といったイメージや30歳前後という年齢から、企業の採用は伸びていない。

◆民間は35歳で管理職

「民間は早ければ35歳で管理職。32歳がリミット」

「専門分野しかできないというのは採りづらい」

ポスドクの現状について討議しようと、九州大が昨年12月、福岡市で開いた討論会。パネリストの企業経営者らの意見は、博士の採用について厳しかった。山田耕路・副学長も「企業は学位ではなく、人間を評価する。博士は自分の良さを発見して伝える努力を」と訴えた。

九州大のポスドクは昨年5月現在、466人。博士号を取得できないまま、標準年限を超えて博士課程に残っている大学院生も357人にのぼる。

九州大大学院でポスドクとして動物行動学を研究している博士研究員の男性(29)は昨年3月、博士号を取得。有給の学術研究員とは違い、博士研究員は無報酬で、任期も1年ごとの更新。大学教員を目指し、専門学校の非常勤講師や研究室の事務作業などで稼いでしのいでいる。

研究室に入ってからの約7年間で博士課程に進んだ先輩十数人のうち、講師や助教などの常勤教員になった人は1人もいない。多くは今もポスドクで、大学教員の道をあきらめ、販売業をしたり、事務職などを転々としている人もいる。

男性は「40歳ぐらいでどこかの大学で常勤に就きたい。それまでは結婚なんて考えられない」と言う。

◆求人情報を集中

九州大、山口大、早稲田大など12の大学や研究所は国の補助を受け、ポスドクの支援事業を展開している。九州大は2006年7月、「キャリア支援センター」を開設。06年度は企業のトップらを講師に招き、経営管理についての講義を開催した。

センターは就職を希望するポスドクや院生172人を登録し、550社を超える求人情報を集めている。だが、2月8日現在、4月以降の就職先が決まっているのは44人。このうち、民間の企業や研究機関への就職は28人にとどまる。しかし、バイオ関連など一部の企業では、博士枠が確保されており、「専門知識や探求心、粘り強さは博士の能力」(福岡経済同友会幹部)という声があるのも事実だ。

元電通マンで支援センターのコーディネーター井上剛実さん(63)は「博士が持つ論理構成力や分析力、語学力などの資質はもっと社会で生かされるべき。企業は『コミュニケーション能力がない』といった裏付けのない俗論を捨ててほしい」と訴える。