『朝日新聞』2008年2月15日付

AO入試、廃止の動き 九大・筑波大など 「成績低い」


面接などを重視して合否を決めるアドミッション・オフィス(AO)入試について、廃止を含む見直しの動きが国公立大で広がっている。九州大法学部は、通常の学科試験を受けた学生よりも入学後の成績が低い傾向があるとして、2010年度入試から廃止する方針を決定。筑波大や一橋大も一部で廃止を決めた。AO入試を導入する大学は私大も含めて増え続けているが、「学力低下を招く」との批判も出ており、AO入試は転機を迎えつつある。

AO入試は従来の学科試験と異なり、面接や論文、志望理由書などで受験生の個性や、やる気を判断する制度。九州大は筑波大や東北大などとともに国公立大では初めて00年度に採用した。現在は法、理、医、歯、薬、芸工、農の各学部と21世紀プログラムで実施している。法、薬学部と21世紀プログラム以外では大学入試センター試験の受験も必要だ。

九大によると、法学部には前・後期試験のほか論文や口頭試問などで選ぶAO入試の3種類があるが、試験別に入学後の成績を比較したところ、AO入試で入学した学生の成績がほかよりも低い傾向にあったという。センター試験を課す学部では目立った差がなく、基礎学力の不足が原因と判断、廃止を決めた。法学部の募集人員は30人。

九大アドミッションセンターの武谷峻一教授は「導入から約10年で検討の時期に来ている。3種類の入試を実施する煩雑さも理由の一つ」と説明。薬学部はセンター試験を、農学部は小論文を新たに課すなどの変更を検討している。

筑波大は09年度入試から、国際総合学類のAO入試(筑波大はAC入試と呼ぶ)を廃止する。定員は4人で、筑波大アドミッションセンターは廃止の理由を、「きめ細かく検討して時間をかける割に、他の入試で入った学生と目立った違いがなかったため」とする。

鳥取大はこれまで工学部8学科のうち7学科で実施していたAO入試を08年度に機械工学など3学科で廃止した。07年度の入学者は3学科で計9人。入試課は「求める人材と入学者が合わない学科があった」と話す。

一橋大商学部も09年度入試から廃止。学力を確保するため、センター試験などを課す推薦入試を新たに始める。秋田県立大も09年度入試からシステム科学技術学部電子情報システム学科のAO入試をやめる。

AO入試は00年以降、急速に増えている。「大学全入時代」を控え、学生の確保などを目的に大学が入試の多様化を進めたことが背景だ。

07年度入試では私大も含めて全大学の約6割に当たる454大学が実施。推薦入試で入った学生が21万6000人、AO組が4万2000人で両方を合わせると全入学者の4割以上を占める。

こうした広がりとともに「学力低下」の一因とする声も上がり始めた。11月解禁が原則とされる推薦入試のように時期的な縛りもないことから、学生の「青田買い」につながっているとの指摘もある。学力水準を保つため、中央教育審議会の作業部会は推薦・AO入試への一定の学力試験の導入を提言している。

文部科学省の担当者は「一部の大学はAO入試を安易に使いすぎている。きちんと時間をかけて受験生の能力をみていない」と話している。

〈河合文化教育研究所の丹羽健夫・主任研究員の話〉 AO入試を見直す大学は今後、増えるだろう。「小論文を中心に試験をしてみたものの、採点がしんどい割に、学力の高い学生が入ってこない」といった話が聞こえてくるからだ。

AOは本来、教科の学力以外に、学生の隠れた能力を発掘するもの。試験官に相当の熱意と学識がなければできない。まずは、そんな試験官が学内にいるかどうか見極めたうえでAOを導入すべきだ。いったんAOを始めたからには、早々に投げ出すべきではない。

定員割れを防ぐため、AOで早めに学生を確保しなければならない大学も多い。そんな大学に「入ってくる学生の学力を確かめろ」と言っても無理がある。むしろ、受け入れた後に補習などできっちり面倒をみる態勢を整えるべきだ。