『中日新聞』2008年2月9日付

東海地方から学生呼び込め 地方の国立大、名古屋で入試


ラストスパートを迎えている大学の入試戦線。ここ数年、東海地方から学生を呼び込むため、名古屋市に試験会場を置く地方の国立大が目立っている。いずれも工学部で、今年の進出数は最も多い5大学に。18歳人口の減少や理系離れによる志願者減を食い止めようと、国立志向が強くモノづくりへの意識も高い東海地方に狙いを定め、大学間の生き残り競争を勝ち抜こうと躍起だ。

「室蘭の国立大を、名古屋で受験できます」。2次試験出願が始まった1月末、名古屋市営地下鉄車内に室蘭工業大の中づり広告が踊った。北海道の国立大が名古屋市に試験会場を設けたのは初めて。今月6日出願を締め切り、ふたを開けると志願者は昨年の1550人から約200人増えた。入試担当者も「まずは成功」と笑みをこぼす。

地方国立大が都市に試験会場を置く動きは、独立行政法人化で予算執行が自由になった2004年以降に加速した。特に工学部が狙う場所は、東京や大阪でなく名古屋。福井大が06年に進出したのを皮切りに、07年は山形大、今年は室蘭工大のほか富山、山梨大が新たに“参戦”した。

福井大の06年入試では、東海地区(愛知、岐阜、三重、静岡)の志願者が777人から1024人に急増。同大入試課は「受験者がもともと多く、便利さを考えた結果」と名古屋会場設置の理由を話す。

各大学とも東海地区出身者の割合に注目する。07年入試の志願者は、福井大は36%(2309人中831人)、富山大は22%(551人中120人)と占める割合は大きい。室蘭工大でも東海・北信越地方からの受験生は85人で、近畿の40人を大きく上回る。

なぜ、工学部が名古屋に会場を設けるのか。河合塾(名古屋市)の教育情報部の富沢弘和チーフは「各大学とも工学部は定員が多く、大学経営上大きなウエートを占める。国立志向が強く、受験実績もある名古屋地区なら堅いと判断するのだろう」と分析する。

愛知県立豊田西高校(同県豊田市)の進路指導主事、松田昌浩教諭(49)も「もともと私立より公立が強い地域で、入学段階で親子とも『国公立大学を』と望み、高校も要望に応えるよう指導する。中部はモノづくりの拠点で、他地区に比べ理系志望も多い。大学側もニーズを敏感に感じ取っているのでは」と話す。

東海地方の好調な就職状況も地方国立大にとって追い風だ。室蘭工大の就職指導担当者は「東海地方は就職先として関東、道内に次ぐ。『故郷の企業に戻れる』という実績が学生に安心感を与えている」。静岡県の自動車機器メーカーに就職する愛知県豊田市出身の同大4年岡田大輝さん(22)は「東海地方からの求人も多く、就職面で不自由はなかった」と語る。

18歳人口の減少とともに続いていた「工学離れ」も、昨年ひとまず歯止めがかかった。しかし、山梨大は今年、名古屋会場設置にもかかわらず志願者を減らした。

立命館副総長の本間政雄教授(大学経営論)は「私大では工学部を改編して成功する例も多いが、地方国立大もようやく危機感を持ち始めた。試験会場を増やすだけでなく、教育や研究、就職などで魅力がないと継続的に学生は集められないだろう」と話している。