『北海道新聞』社説 2008年2月5日付

教育再生会議 上からの改革の危うさ


政府の教育再生会議が最終報告を出し、一年三カ月におよぶ活動を終えた。これまで発表した提言の域を出ない内容だ。

再生会議は、安倍晋三前首相の肝いりで始まった。昨年九月に安倍氏が退陣すると、急速に存在感を失った。

時の政権をバックにして、「上からの改革」を強引に進めるやり方では、学校現場が混乱するだけだ。公教育の再生も望めまい。

福田康夫首相は、後継組織を発足させる方針を表明した。しかし、今度こそ欠かせないのは、再生会議の未熟さを教訓に、教育再生への道筋を示す努力ではないか。

最終報告には、目新しさはうかがえない。学校の選択に競争原理を持ち込む「教育バウチャー制」導入、第三者機関による学校や教育委員会の評価制度など、安倍カラーを強くにじませた提言も消えた。

バウチャー制は、学校間格差を広げるとして、父母や教員の間だけでなく政府内にも慎重論や反発があった。

学校評価制と共に、安倍前首相の著書「美しい国へ」で示されていた内容だ。これを踏襲しただけの提言では、「素人の思いつき」「権力への追従」と批判されても仕方ないだろう。

最終報告は、義務教育での「飛び級制度」や、「六・三・三・四制」の弾力化について「検討を開始すべきだ」としている。

勉強が「できる子」にとって、「飛び級」は有利な制度かもしれない。しかし、学校は多様な能力と性格を持った子どもたちが集まる場だ。

学力がついていない子や、特別支援を受けている子もいる。

最終報告が子どもの「自立と共生」の大切さを強調していながら、こうした子どもたちへの対策や配慮に触れていないことにも不満が残る。

できる子の能力を伸ばすことは、もちろん大切だ。同時に、そうでない子の支援も大切な公教育の課題だ。

ここを素通りしている提言が、公教育の底上げにつながるだろうか。

最終報告は、「直ちに実施に取りかかるもの」として、「徳育」の教科化や高校での奉仕活動などをあげた。

いずれも安倍前首相がこだわった教育テーマだが、文部科学省や中央教育審議会には反対や慎重意見がある。

奉仕活動や徳育の学習を子どもに強い、特定の価値観を上から押しつけるやり方は危ういのではないか。

それだけで、社会性や規範意識が身につくとも思えない。

公教育は、深刻ないじめや学力の二極化など多くの課題を抱えている。授業の質を高めるため、教員の能力向上策も欠かせない。

これが、再生会議を引き継ぐ新組織の重い課題となるだろう。