『朝日新聞』2008年2月4日付

勤労学生→社会人 夜の大学 主役交代


「二部」「夜学」の名もある夜間学部や学部の夜間コースが減っている。大学進学率の高まりとともに志願者が減っているためだ。一方、夜間に開講する大学院は、03年度の専門職大学院の登場とともに増えてきた。かつての勤労学生から、高度な知識や技術を身につけたい社会人へと、夜のキャンパスの主役交代が進んでいる。

◆MBA・起業狙い大学院へ

「なあなあになる恐れはないかな」

「毎月、品質会議をやるから大丈夫。長期的には競争するより良いと思う」

十数人のビジネスマンたちが夜の教室で議論を交わす。法政大の専門職大学院「イノベーション・マネジメント研究科」。組織・人材についての科目で、この日のテーマは「自動車会社と系列部品メーカーの関係と競争力」だ。みんな社会人だが20代から50代まで幅広く、経営者も交じる。

04年に開設された同研究科は、主に経営学修士(MBA)の取得や起業を目指す人が対象のビジネススクール。市ケ谷キャンパスの一角で、都心に勤める人が通いやすい立地も売りだ。

神奈川県平塚市の八田純也さん(30)は、4年半勤めたソフトウエア会社を辞めて通う。週3日の通学のうち夜は1日。「経理部門でトップと話す機会に恵まれ、もっと知識を得たいと触発された。MBAを取り、マーケティングなどの職種に挑戦したい」

この夜の授業をした藤村博之教授は「社会人院生は熱心で怖いが、張り合いがある。彼らが提供してくれる組織や人事に関する題材で、授業はいろんな方向に広がる」と話す。

同研究科は昼夜開講。当初は1年制だけだったが、昼夜みっちり学ぶ必要があり、休職を認める企業の社員など通える人が限られるとして07年度から2年制も導入した。「大学院で学ぶニーズがある一方、会社を休ませて人材を送り込む企業は少ない。その結果、夜学ぶことになる」と岡本吉晴研究科長は言う。

◆志願者激減で「二部」縮小

夜のとばりが降りた名古屋工大(名古屋市)のキャンパスを行き交う人影が目立つ。二部の1限の授業を受ける学生たちだ。マイカー通学が認められた二部の学生の車で、駐車場も徐々に埋まってきた。

名工大は二部の入学定員を新年度に140人から20人へと大幅に減らす。1959年に開設され、最も多い時期は200人だった。志願者が減ったうえ経済的に困っている学生も少なくなり、必要性が薄れた、という理由だ。

10年前まで1000人前後に上ったこともある志願者はここ数年、300〜400人台だ。志願倍率は2倍超を維持しているが、合格しても、併願した私大の昼間のコースに流れがち。40人分ある推薦入学の枠も近年はなかなか埋まらないという。

「経済的な事情で二部を志望する人は減っている。成績でみて入れるから来ているという人が主流ではないか」と後藤俊幸教授。アルバイトやパートを除く有職者が二部入学者に占める割合は03年度は17%だったが、今年度は6%に過ぎない。

梅原秀哲副学長によると、80年代前半までは二部学生で日中、常勤の仕事がある学生は3分の1程度いたという。「勤め先から『5年で卒業しろ』と言われ、緊張感があった」。今の二部学生にはプレッシャーがない分、留年後辞めるケースが増えたという。

「あこがれの大学だった。本当は昼がよかったけど、夜のほうが入りやすかった」と3年の男性(21)。昼間はパチンコ店で週5日アルバイトをしている。別の男性(22)は「自分がいるところが小さくなるのはやっぱり寂しい」。

名工大は二部縮小と併せて大学院を再編、博士前期課程の入学定員は399人から586人に増やす。企業からも修士を求められ、定員超過が続いていた。

●コスト高く削減加速か

文部科学省によると、夜間学部を置く大学は07年度で20校と、04年度(30校)の3分の2に。同じ学部を昼、夜にコース分けし昼夜開講制を採る学部がある大学は51校。やはり04年度の70校から大幅減だ。

これに対し、大学院の場合は、夜間大学院がある大学が07年度で28校(04年度22校)と夜間学部を置く大学数を上回り、昼夜開講制は307校(同277校)に。学部とは対照的だ。

夜間の学部・コースの減少について、河合塾教育情報部チーフの富沢弘和さんは「各大学は『勤労学生の減少』を理由に挙げるが、大学間競争が厳しくなるなかで、人やカネを昼間に集中したいというのが本音ではないか」と推測する。

夜間学部の学費は通常、昼間学部の半額〜6割程度だが、必要単位数は昼間と大差なく、大学にとってはコストがかかる。「新学部設置などに打って出るとき代わりに削られた」と早稲田塾総合研究所の倉部史記・主任研究員は分析する。