『信濃毎日新聞』社説 2008年2月2日付

教育再生会議 処方せん示せぬまま


政府の教育再生会議が1年4カ月の活動を終えた。安倍晋三前首相の肝いりでスタートし、突然の政権交代で求心力を失っていた。

再生会議は経済界など幅広い分野から委員を集めた。論議は全体として、教育に競争原理を導入することや、「徳育」など復古調の色彩を持ち込むことにエネルギーが注がれたように見える。

現場が直面する課題に向き合ったうえでの指摘とは言いがたい。親や教育関係者の理解が得られなかったのも当然だ。

再生会議の功績を挙げるとすれば、家庭の子育てから大学・大学院まで、教育が抱える問題に焦点を当て、関心を高めたことだろう。

2006年10月の発足に前後して、いじめ自殺が相次いで明らかになった。高校で必修のはずの世界史未履修も発覚した。

再生会議の論議も世論の批判も、学校や教育委員会の対応に向けられた。その結果、教委のあり方や教員の資質が問われることになった。

ただし、再生会議が改善策について十分検討したとはいえない。第一次報告に盛り込んだ教員免許更新制など教育三法の改正は、中央教育審議会の審議を無理やり短縮してまで結論を出した。

安倍氏が導入を目指した教育バウチャー(利用券)制度や、母乳育児などをうたった子育て提言も、各方面の批判を受けて取り下げざるをえなかった。

会議が迷走した原因として、論議の底の浅さに加えて、政権との距離が近すぎたことが挙げられる。ここまで政治が教育行政に露骨に介入したのは異例なことだ。再生会議と政府のかかわり方が、教育行政の将来に禍根を残さないか心配だ。

最終報告書にも、さまざまな課題が並んでいる。直ちに取り組む事項として、徳育の充実、習熟度別・少人数指導の推進、教員の社会人採用拡大など27項目。検討を始めるべき事項は小中一貫制度や大学入試の改革など9つある。

福田政権が教育改革に力を入れるならば、現場や専門家の声に耳を傾け、優先すべき事項の選択と、思い切った財政支援が鍵になる。再生会議の求めに応じて、提言を実行するための推進機関を置くことには、賛成できない。

国際的な学力テストで、日本の子どもたちは応用力や読解力が低下しているといった結果が出ている。全国学力テストからは、親の経済力により教育格差が広がりつつあることもうかがえる。

公教育の再生を目指すならば、こうした問題にどんな処方せんを描くのか。そこから検討を深めたい。