『朝日新聞』2008年1月28日付

短大踏ん張る 面倒見の良さで成功例も


少子化で「大学全入時代」と言われるいま、2年制の短期大学が土俵際に立たされている。キャリアを求める女子に敬遠されるようになって、定員割れや赤字に苦しみ、数は減る一方。それでも最近は、4年制大学への編入指導や、日常生活から就職まで手取り足取りの面倒見の良さをセールスポイントにして、男女ともに人気を集めるなど、土俵際で踏ん張る短大も目立ってきた。

◆4年制編入、実績に強み 市立大月短大(山梨)

「こういう感情論の答案に、採点者はがっかりするんです」。山梨県大月市立の大月短大で、東京から来た予備校講師が声を張り上げた。4年制大学への編入試験に備える「小論文講座」が9日に開かれ、受講した約50人は真剣だった。

学生が約460人という小規模な短大。でも「4年制大へのジャンプ台」という評判も手伝って、6割が県外の出身者。06年度の広島大、香川大など編入合格者はのべ72人で、全国の公立短大の中ではトップクラスだ。特に国公立大へ多く送り込み、07年度はすでに8人が信州大に、1人が横浜国立大に合格している。

「経済的理由で国公立大を志望したものの、不合格となり、大月短大からの編入を狙う学生が多い」。進路支援室の清水健二室長が言う。

高い合格率を支えるのは毎週1回ある「編入学ガイダンス」の授業。1年次の5月から、志望理由書の書き方や、試験で課されることの多い小論文を指導する。論文は予備校講師が添削もして、1年次だけで20回近く受けてもらう。「実践的ですね。こう書けばよかったのか、と驚かされます」と、経済学科1年の佐々木馨さん(19)は言う。

大月短大が編入指導を「売り」にするのは、少子化で入学者が減ることへの強い危機感があるからだ。

同市は05年、大月短大の存廃を検討する審議会を設けた。黒字経営が10年以上続いているから「当面は存続」となったが、2年連続で定員を割れば再検討する、との条件がついた。

年間予算は3億円ほど。学部や施設の増設は望めない。「生き残る方法」(村越洋子学長)として選んだのが、もともと実績のあった編入指導をさらに強化することだった。

05年度には進路支援室の専従職員を1人増やして3人にし、志願書類の添削、模擬面接などにいつでも応じられる態勢をとった。

経済学科2年、中井麻衣さん(20)はこの春、念願の信州大経済学部に編入する。「予備校ではなく、大学生活を送りながら、最終的な志望校に合格できた。ここに来てよかった」

◆担任制、マナーも身につく 金城大短大部(石川)

おもちゃのチャチャチャ、かわいいかくれんぼ……。聞き慣れた歌声とピアノの音が入り交じる。

金城(きんじょう)大短期大学部(石川県白山市)の幼児教育学科。11日は、学生たちがズラリと並んだピアノ付きの個室に入れ代わり立ち代わり入り、2人の教員のもとでそれぞれ12〜13分ずつ、2種類の指導を受けた。

レッスンカードには年間の授業内容がびっしり。受けたら教員の判をもらう。年6回の試験で35曲前後を完全にマスターする仕組みにもなっている。

「教員と学生が常にふれあう『手づくりの教育』がウチの特色。高校までで身につかなかったマナー、言葉づかい、自学習慣まで補い、送り出す努力をします」。朝倉喜裕教授は言う。

高校のように40人前後を1単位とするクラスがあり、毎日1度はふれあう担任教員がいて、クラスごとに時間割りがある。

「就職から恋の悩みまで、何でも担任の先生が相談にのってくれて大助かり」と、小川晃代さん(20)。池野一正さん(20)は「自由を謳歌(おうか)する大学生のイメージとは大違い。それでも短期集中型で、保育士、幼稚園教諭といった資格や免許がとれ、即戦力になれる魅力は大きい」。

金城短大にはビジネス実務など計3学科がある。95年に共学となったため、70人ほどの男子を含め、約850人が学ぶ。

ここでは大学教員も、高校の先生に近い。毎朝8時45分に全員がそろい、職員幹部を交えて10分ほど打ち合わせ。担任する教室へ散った後、原則は午後4時15分まで学内にいる。「研究より教育に注力してもらっています」と加藤恒副理事長。教職員は、学生募集のための高校回りから、就職を助けるための企業回り、市民に親しまれるための地域貢献活動まで、結束してやるという。

「18歳人口が目に見えて減り始めた10年ほど前から、やがて学生が来なくなる、という危機感が強まった」(入試広報室)。手づくり教育に改善を重ねたせいか、「定員割れは一度もなく、黒字経営を維持しています」。

●6割が定員割れ

短大全体で見ると、経営は年々厳しくなっている。文部科学省の調べでは、短大は07年度で435校。うち私立が9割を占める。6年間で124校減り、学生も10万3000人減の約18万7000人まで落ち込んだ。

女子学生に対する教育の考え方が「良妻賢母の育成」から「職業人の育成」へと変わったのと同時に、少子化で4年制大学に入りやすくなったことが大きい。

短大は4年制へと改組したり、2年制のまま男女共学にしたりした。不況期には、専門学校に学生を奪われ、実学教育へと舵(かじ)を切る傾向が強まったものの、人気は低下し続けた。

日本私立学校振興・共済事業団によると、07年度は調べた365の私立短大のうち6割が定員割れとなり、過去最悪の状況。06年度でさえ、短大を経営する142法人の5割近くが実質的な赤字だったから、生き残りのためには各短大の懸命の改革努力が欠かせない。