『朝日新聞』2008年1月21日付

「破綻防げ」私大を指南 経営診断、国もてこ入れ


「大学全入時代」を迎え、多くの私立大学・短大の経営状況が悪化している。学生の定員割れは短大の6割、大学の4割に達し、それが原因で破綻(はたん)するケースも相次いでいる。文部科学省は、外郭団体の日本私立学校振興・共済事業団(私学事業団)と連携し、経営分析や経営指南に取り組む。

◆運営法人3割が赤字

98法人が「経営困難状態」、うち15法人は、「いつつぶれてもおかしくない」――。私学事業団はこのほど、私立の大学法人、短大法人の06年度の経営状況をこう判定した。実質赤字の大学法人も前年度より29法人増えて、167法人(32%)。各法人で事情が異なるため全部がすぐに破綻するわけではないが、私学の厳しい経営環境が改めて明らかになった。

経営悪化の要因は、少子化と大学の急増だ。90年代後半から問題は目立ち始めたが、文科省は「私学の自主性」を重視。03年に広島県の立志舘大が経営悪化で休校して初めて、経営難に陥った私学への対応について本格的な検討に入った。

文科省から具体的な対応策の作成を任された私学事業団は07年8月、報告書を公表した。経営困難状態となった法人を、経営改善が可能な段階(イエローゾーン)と、自力再生が困難になった状況(レッドゾーン)と大まかに区分。さらに教育研究活動のキャッシュフローや負債、資産などの指標をもとに、「A1」(設備更新ができる十分な黒字)から「B4」(いつつぶれてもおかしくない)まで7段階に分けた=表。

また、具体的な対応策として(1)イエローゾーンの法人は目標と期限を示した経営改善計画を作る(2)レッドゾーンの法人には、文科省や事業団が自主的な学生募集停止を求める(3)従わないと、法人名を公表し社会的な圧力をかける――といった手段が示された。

◆危機を脱出・睦学園(兵庫)7校を連携運営 身の丈経営奏功

数年前に経営危機に陥りながらも、対策が奏功し現在はほぼ立ち直った大学法人「睦学園」(神戸市須磨区)を訪ねた。

兵庫県内で大学から幼稚園まで7校を経営する学園の経営が悪化したきっかけは、95年1月の阪神大震災。経営する須磨ノ浦女子高校が全壊した。94年に別の高校を開設し、4月に兵庫大の開設を控えた支出がかさむ時期だった。

学園は「生徒さえ戻ってくれば大丈夫」と楽観し、50億円かけ元の土地に新校舎を建てた。だが、工事中の2年間、女子高の生徒は30キロ離れた兵庫大のプレハブで授業を続けた影響で、震災前に1400人いた生徒は600人弱に激減。渡辺東理事長代行は「ボディーブローのように経営を悪化させた」と話す。

生徒が集まらないまま、女子高再建時に借りた25億円の返済猶予期間が切れた01年、経営は「どん底」に。渡辺氏は「一時は土地の切り売りも考えた」という。

しかし、危機感が学園内に一体感を生み、それまで大部分が独立採算だった7校の連携が始まる。女子高には、保育士養成に定評ある兵庫大・短大に自動的に入学できる新コースを設置した。これが人気を呼び、引っ張られる形で他のコースの志願者も増加。生徒数は1千人弱まで回復した。さらに(1)借金を繰り上げ返済して利息を減らす(2)大学・短大の教職員の定年を70歳から3〜5歳引き下げ(3)教職員の定期券を1カ月ものから半年ものに替える――といった細かな節約も功を奏し、経営は好転した。

だが、睦学園が危機を乗り切れたのは、80年余り短大や高校を経営し豊富な資産があったから。「大規模化をめざさず、身の丈にあった経営をしていたことも幸いした」(渡辺氏)という。

◆家業意識、傷広げるもとに

私学事業団の学校法人活性化・再生研究会の座長を務める清成忠男・法政大学事顧問に、私学経営の現状を聞いた。

――赤字の学校法人の現状をどう見ますか

「イエローゾーン」に入る学校法人の話を聞くと、多くの学校の経営者には危機意識はある。しかし、このままでは限界が来ると分かっていても、どう対応すべきか分かっていない。

やるべきことをやっていない法人も多い。短期的な資金計画すらないケースもある。ブランド力のある東京の大学のマネをするだけでは生き残れない。地方で活躍する人材の育成に力を入れるなど、特色を出すべきだ。

――なぜこれほど赤字の法人が増えたのですか

最近できた大学の多くが短大からの移行組だ。志願者が減っても、短大のままでいれば10年以上は耐えられるのに、無理に4年制に移行した。だから移行当初から定員割れを起こし、傷口を広げたケースが多い。

再建が難しくなって学生募集の停止などを勧めても、創業家の理事長が「続けたい」と応じないこともある。家業を「自分の代でつぶしたくない」という意識が企業以上に強い点も、傷を広げる原因となっている。

――今後どんな対策が必要と考えますか

定員割れが続いて私学が破綻したときには、周辺の同ランクの私学も同じように定員割れしていることが多い。破綻した大学の学生の受け皿を国などが決める際には、こうした同ランクの私学に割り振るといいのではないか。1校の破綻を機に、残った別の私学の経営を立て直すことも考えるべきだ。