『信濃毎日新聞』社説 2008年1月21日付

農山村観光 大学とも連携深めて


少しのことにも先(せん)達(だつ)がほしい。「徒然草」の一節である。

長野県の農山村観光は少しのことどころではない。地域おこしのてこになり得る。いい指導者を養成し、大きな柱に育てたい。

信大農学部が、地域の観光資源を発掘して売り込み、案内のできる農山村観光の専門家を養成する教育コース開設の準備をしている。

動植物や森林、食料生産などを専門とする農学部の教員のほか、地域史を研究する人文学部の教員らが教える計画だ。

この構想を踏まえて信大農学部と伊那市が先日、観光の展望や課題についてフォーラムを開いた。従来型の大規模開発による観光誘客に頼らず、地域の自然や名所を案内することの大切さを確認している。

こうした流れはこれからも強まりそうだ。既に、農山村で自然、文化、人との交流を楽しむ「グリーンツーリズム」や、環境に悪影響を与えない方法で自然や文化に触れ学ぶ「エコツーリズム」の取り組みが県内でも盛んになっている。

具体的には農家民宿、農業体験、農産物直売、山村留学、修学旅行、自然観察などだ。都会の人を癒やし、農山村に収入をもたらす。受け入れる農山村の女性や高齢者の頑張りが頼もしい。グループをつくり研究会も開いている。

都会の人を農山村に引き付けるポイントは、その地域ならではの景観や食べ物、祭り、芸能、工芸、民話、昔からの遊びなどだ。

その「足元の宝」探しに地元大学が手を貸すことで、視野が広がり、魅力も数多く発掘できるだろう。外部の目や手を借りながらも自ら地元を調べ、考え、生活文化を創造する「地元学」を根付かせたい。

専門家養成では、地域社会の現実をしっかり見つめる目を養う必要がある。人口減と高齢化が進み厳しい状況に置かれた農山村も多い。実情を踏まえた地域づくりと観光でなければ、長続きしない。

県内では長野大学に環境ツーリズム学部があり、環境と観光を総合的に学ぶことができる。松本大学には観光ホスピタリティ学科があり、観光と福祉を中心に据えている。

それぞれの大学から、農山村観光を活性化する人が育ってほしい。

文化人類学の米山俊直氏は日本文化の多様性を明らかにし、山で区切られた各地域を「小盆地宇宙」と呼んだ。日本の小盆地61選に、信州から長野、上田、佐久、松本、諏訪、伊那の六つを入れている。

確かに県内各地域にはそれぞれ個性がある。その良さを掘り起こし、自信を持ちたい。観光客や移住者を引き付けることになる。