『朝日新聞』2008年1月15日付

上がれ!大学発人工衛星 東北大・香川大・東大


◆H2Aロケットに、今週にも小型衛星相乗り

学生たちが衛星を手作りして宇宙を目指す取り組みが盛んだ。宇宙航空研究開発機構(宇宙機構)が今秋以降に予定している大型衛星の打ち上げに、東北大、香川大、東京大などの小型衛星が相乗りする。大学側は「本番を経験することで問題解決やコミュニケーションの能力などが養える」と教育効果に期待。宇宙機構も宇宙航空分野への関心を高め人材を育てることを狙って、支援を強めている。

◆実践力育成 地域の協力も

宇宙機構は、H2Aロケットで打ち上げる温室効果ガス観測技術衛星のすき間に載せる小型衛星を公募。打ち上げ費用は無料で21件の応募があり、3大学を含む6件が選ばれた。

東北大の衛星は、工学部の吉田和哉教授と理学部の高橋幸弘講師の研究室が共同開発している。

50センチ立方ほどで重さは約50キロ。軌道上で長さ約1メートルのアンテナを伸ばしてバランスをとる。雷が発生する際にその上空で起こる謎の発光現象を上から観測する世界初の衛星だ。

製作期間は2年で、費用は約1億円。プロジェクトマネジャーの氏家恵理子さんは修士2年で、山形大を卒業後、「衛星を作りたい」と移ってきた。学生のまとめ役や部品を担当する企業との交渉役として睡眠時間3〜4時間の毎日だが、「わからないことは徹底的に調べ、やる前に手順を考えることが身についた」。吉田教授も「タイムスケジュールの厳しさ、問題解決や調整の能力など、社会で必要な力も養える」と言う。

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香川大では工学部の能見公博准教授の研究室が、「食パンサイズ」の衛星2個をつないだユニークな親子型衛星を開発中だ。

重さ4キロの親と3キロの子を長さ5メートルのひもでつなぎ、ひもの長さを伸び縮みさせるなどして子の位置や向きを制御する。この技術を応用すれば国際宇宙ステーション(親衛星)につないだ子衛星でステーションの損傷を検査したり、衛星を回収したりすることもできるという。

地域との結びつきも重視。部品の製作などで地元企業の協力を得て、費用を1000万円程度に抑えた。地元の小学校で衛星を紹介するイベントも開いている。

修士2年の高木洋平さんは設計を担当。「大学では設計の基本的なことしか学ばない。発注する図面を作るのは初めてなので、実践的な勉強になる」と目を輝かす。

初挑戦の東北大と香川大に対し、3回目となるのが東大工学部の中須賀真一教授の研究室だ。過去2回はロシアのロケットで打ち上げたため数百万円を支払ったが、今回は不要で、衛星の重さを1キロから8キロに大型化させた。宇宙で望遠鏡を広げて地球を撮影する。製作費は1000万〜2000万円だ。

中須賀教授は「大学院の教育で要求されるようになってきたリーダーシップや忍耐力、コミュニケーション能力なども鍛えることができる」と言う。

◆宇宙機構も連携を強化

大学の衛星やロケットづくりを支援するNPO法人「大学宇宙工学コンソーシアム」の参加大学は年々増え、現在は約40。当初からかかわる中須賀教授は「宇宙があこがれだった時代から、自分たちが手を出せる時代に変わってきたということ。学生の人気も高いが、大学だけではできないことも多いので、宇宙機構にはより一層の支援をお願いしたい」と話す。

その宇宙機構は今回の「無料相乗り」のほか、東北大(07年8月)、東大(07年10月)などと協定を結び、大学との連携を進めている。東北大には客員教員を派遣、東大には寄付講座を設ける。無料相乗りを続けるとともに、協定を他の大学にも広げていきたいという。

さらに来年度には現在の大学院教育交流センターを発展させた「大学連携推進室」(仮称)を発足させる。安部隆士センター長は「大学を支援することで宇宙航空分野を支える人材を広げ、分野全体の活性化につなげたい」と期待している。

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◆最近の大学発人工衛星の例(すべて相乗り)

02年12月 千葉工業大のクジラ生態観測衛星をH2Aロケットで打ち上げ

03年6月 東京大と東京工業大の実験衛星をロシアのロケットで打ち上げ

05年10月 東大の実験衛星をロシアのロケットで打ち上げ

06年2月 東工大の実験衛星をM5ロケットで打ち上げ

06年9月 北海道工業大などの実験衛星をM5ロケットで打ち上げ

08年2月以降予定 東工大、日本大の実験衛星をインドのロケットで打ち上げ

08年秋以降予定 東北大、香川大、東大、東京都立産業技術高等専門学校などの衛星をH2Aロケットで打ち上げ