『科学新聞』2007年12月21日付

研究開発力強化法案(仮)検討開始 新たな体制整備目指す 小委員会設置


米国の競争力強化法、EUの第7次フレームワークプログラムなど、世界各国が科学技術を経済発展の原動力として、予算や体制強化を図っている中、日本でも新たな体制整備に向けた検討が始まっている。自民党の科学技術創造立国調査会は、研究開発力小委員会(小委員長=小坂憲次・元文部科学大臣)を設置し、研究開発力強化法案(仮称)の検討を開始した。

米国は今年、競争力優位を確実なものにするため、科学技術予算の大幅な増額など、研究開発の推進、理数教育の強化を図る包括的なイノベーション推進法「競争力強化法(America COMPETES Act)」を成立させた。2010年までに、NSF、NIST、DOE予算を約1.5倍に増額するほか、理数教育を強化し、科学技術への理解を増進するため、教師の質・量を向上させるとともに、研究成果に基づいた効果的な理数教育を支援することや、中高生や一般国民を対象とした教育プログラムを拡充させる。その他、若手研究者や女性研究者への支援、ハイリスク研究の促進、製造技術の支援など、多くの政策プログラムが盛り込まれた。現在、米上院・下院とも、予算教書を上回る額の各省研究開発予算を審議している。

一方、EUは第7次フレームワークプログラムのもと、R&D費の対GDP比を00年の1.9%から10年には3%に引き上げることを決定。これにより、02〜06年の200億ユーロが倍増され、07〜13年には505億ユーロがR&Dに投資されることになる。10の戦略重点分野の共同研究に324億ユーロ、基礎研究に75億ユーロ、人材育成47億ユーロ、基盤整備41億ユーロといった具体的枠組みの中で、競争力を強化するための施策が進められている。

また、中国では現在、科学技術進歩法の改正作業が進んでいる。中国版バイドール法の導入などの国費に基づく知的財産権の見直し、ハイリスク研究への配慮、中小企業税制優遇、科学技術情報システムの整備など、研究開発環境を強化することが主な狙いだ。また06年に発表した国家中長期科学技術発展計画では、科学技術強国を目標にR&D投資をGDP比2.5%(現在の2倍)にする数値目標に設定している。

さらに韓国やシンガポールなどでも、研究開発投資の拡大と人材獲得が国力の源泉であるという認識で科学技術政策を推し進めている。

それでは日本の現状はどうであろうか。96年に科学技術基本法が成立し、その後、第1期から3期まで、科学技術基本計画が進められているが、政府研究開発投資はここ数年横ばいで00年度の予算を100とした場合、05年度予算は97とやや減っている。同じ指標で各国を見てみると、米国は140、EUは130、ドイツ142、フランス150、イギリス151、中国223、韓国190と大幅に予算を伸ばしている。

また、産学官での人材流動を阻害している年金や退職金制度、独法改革で一律に議論されている研究開発独法の問題など、社会システムに依拠した部分での問題が山積している。

そこで研究開発力小委員会では、こうした緊急に取り組むべき課題を解決するため、研究開発力強化法案(仮称)の検討を開始した。研究競争力を強化するために、その阻害要因を排除するシステム改革を進めるのが狙い。

研究開発投資を増やすことも重要だが、自由度を与える制度改革が進めば、研究現場が活性化し、結果として日本の競争力は高まるだろう。今後の検討を注視していく必要がある。