『朝日新聞』2007年1月7日付

国立発商品が続々 東大泡盛 京大カレー 北大ハム


キャンパス内の資源や日ごろの研究成果を生かした「大学発のブランド商品」が続々と生まれている。とくに国立大では04年度の法人化をきっかけに、大学間の生き残り競争が激しくなる中で急増。社会貢献の事例を人々の五感に訴える「大学の顔」として定着しつつある。キャンパス内にショップを設け、ネット通販に取り組むところも出てきた。

東京大の赤門(東京都文京区)をくぐると左手に、東大グッズなどを置くコミュニケーションセンターがある。

東大が保管する黒こうじ菌により復活した沖縄の泡盛「御酒(うさき)」、約100年にわたるアミノ酸研究の成果を凝縮した「東大サプリメント」、古代の香りだという大賀ハスの香水「蓮香(れんか)」……。

こうした商品のほか、「大学発」を示すコミュニケーションマークつきの革製サイフや手帳、カップ、ノート、絵はがき、DVDなど約100種が並ぶ。いずれも東大が各企業の協力を得て形にしたものだ。

「商品説明から展示、販売までアルバイトの東大生がやります」。センター運営のために設立されたUTプロダクツの社員で、店長の吉岡亜野(あや)さんが言う。各研究室を回り、新商品のネタを探すアルバイト部隊もいる。

大学ホームページから通信販売で買い物できる態勢をとり、入学式や大学祭ではテントの出店も。06年度の売上高は1億円を超えた。が、「利益となると驚くような額ではない」(広報グループ)。年に約6万人がセンターを訪れ、研究の一端を知ってもらった効果の方が大きいという。

京都大といえば、正門前の時計台(京都市左京区)がシンボル。この時計台の中に大学側の依頼で03年、京大生協が「京大ショップ」を開いた。生協と学生、職員らからなる「グッズ制作委員会」で吟味した約100種の商品が並ぶ。

大ヒットは、尾池和夫総長が考案した「総長カレー」。07年9月に発売、3カ月で1万食を突破した。もとは生協が正門横のカフェレストランで1カ月限定の「名物料理」を試みたものだったが、9種類の香辛料で仕上げたソースに、バナナやココナツミルクで甘みとコクを加えたとあって行列ができ、続けることに。レトルト商品にまでなった。

京大、早稲田大、酒造メーカーの黄桜でつくったビール「ホワイトナイル」、発泡酒「ブルーナイル」も、いまや両大学の看板商品。早大のエジプト考古学研究の上に、京大が長年もつ古代エジプトの小麦や、栽培・醸造技術が生きた。

月に平均5000本売れても大学収入としてはわずか。でも「研究の面白さを若者たちに訴える絶好の教材になる」と、関係者らはPRに意気込む。

北海道大は、市民や観光客が休憩したり、缶ジュースを飲んだりできる交流プラザの中に「エルムの森ショップ」(札幌市北区)を設けた。

教職員らが吟味した「認定商品」が約60種あり、北海道をモチーフにしたマークがつく。マーク使用料として、メーカーが百貨店や空港で売ったものも含めて販売額の3%をもらう約束で、06年度は約800万円がキャンパスの緑化などにあてられた。

「04年の台風で倒れたキャンパス内のポプラで、寮歌『都ぞ弥生』を聴くオルゴールを作った。1個4万円もするのに1日半で300個を完売。北大のブランド力に自信を深めた」と、逸見勝亮副学長は言う。

現在は、研究林のミズナラ材を使った温湿度計や写真スタンドを認定しているほか、地元産ミルクを使ったクッキー「札幌農学校」、農学部の製造技術を基にしたハム「永遠(とこしえ)の幸(さち)」などが人気。大学ホームページの「広報・公開」の項目から通販でも買える。

◆ブランド戦略、成否のカギ

国立大学協会(国大協)によると、傘下の86大学の大半はひとつ以上、研究成果が詰まった「ブランド商品」を披露できるようになっている。

学生が自主的に企画したみやげ品もあれば、大学内で育てた生鮮品、大学発ベンチャー企業から生まれた品も。「地元産業界を活気づける起爆剤」(鳥取大)、「市場の評価を受けることが、学生の研究意欲をかきたてる」(新潟大)という。

ただ、キャンパス周辺の環境保全と連動する形で「九州大吟醸」という酒を企画し、他大学のブランド品も研究した九大大学院の助教、佐藤剛史(さとう・ごうし)さんは成否のカギについて「大学全体のブランド戦略ができていて、その中に商品販売もきっちり組み込まれていること」を挙げる。

つまり東大、京大、北大のように、大学が本腰を入れて商品を集め、販売する態勢をつくっていないと、「せっかくの商品も意義も知られないまま。売れないと、大学の知名度も上がりようがない」と指摘する。

国大協は2月に、各大学のブランド品を紹介する雑誌を4000部発行し、教育関係者らに配布する予定だ。