『朝日新聞』2008年1月4日付

京都大が動物園と連携、研究所設置へ 動物の幸せを研究


京都大学は今年4月、名古屋市の東山動物園などと連携し、人間が他の動物をもっと理解し、お互いに共存するにはどうしたらよいか、などを考える「野生動物研究センター」を設置する。海外では動物園と連携する大学の研究部門は多いが、日本では初めて。

京都市左京区にある吉田キャンパスに拠点をつくり、京大霊長類研究所(愛知県犬山市)に所属するニホンザル野外観察施設の幸島(こうじま)観察所(宮崎県串間市)、下北研究林(青森県・下北半島)なども移管する。同研究センターは、教授10人(京大の他部門との兼任5人を含む)など15人のスタッフで、7部門で発足する予定だ。

目玉は、動物園科学部門。京大霊長研准教授から昨年、名古屋市東山総合公園企画官に転身した上野吉一さん(動物福祉学)が担当する東山動物園と連携することが決まり、動物園生まれの動物でも努力してエサをとるようにするなど、生き生きと暮らすための動物福祉などを共同研究する。関西の動物園にも打診している。動物の「心」を調べる比較認知部門、絶滅の恐れがある動物の研究を進める保全生物学部門もある。

「大学に付属植物園はあるのに付属動物園がないのはなぜか」との学内の声に触発され、霊長研の松沢哲郎所長や理学研究科の山極寿一(やまぎわ・じゅいち)教授らが野外研究だけでなく、動物園の動物も視野に入れた研究を計画した。

研究対象は、京大の動物学研究の伝統で、個々の動物に名前が付けられる個体識別と長期観察ができるニホンザルやチンパンジーなどの霊長類のほかクマやシカ、ゾウなどを考えている。

山極教授は「動物園は野生を見る『窓』といえる。そこにいる動物の幸せを考えながら、その生理、行動、遺伝などを研究し、ヒトとの共存を考える拠点になればと思う」と話している。