『信濃毎日新聞』社説 2007年12月26日付

教育再生会議 底の浅い提言が また


小中一貫校の制度化、飛び級の検討、英語教育の充実−。政府の教育再生会議は、またも大量の“提言”を盛り込んだ第三次報告をまとめた。

学力低下や格差の拡大といった問題をなんとか改善したい、という熱意は分かる。だが、幼児教育から大学・大学院の改革、親のあり方まで、多様な論点を盛り込んだため、焦点が定まらない。一つひとつを丁寧に論議した上での提案なのか、大いに疑問だ。

第三次報告の目玉の一つが、学制の見直しである。「6・3・3・4制」を弾力化するよう求めている。一部で特例的に行われている小中の一貫教育について、一般にも取り組めるよう制度化を提言した。

私学を中心に中高一貫校が広がる中で、なぜ義務教育の「6・3制」を変える必要があるのか。報告では「子どもの発達に合った教育のため」としか触れていない。

論議の中では、弾力的なカリキュラムを組み、早熟傾向な子どもの発達に合わせた教育ができることや、不登校が増える中一ギャップの解消になるといった意見が出ていた。しかし、いまの10代前半の子どもたちを取り巻く問題を、学制変更で解消できるのか。先行事例などの丁寧な検証がないままに、改革の柱に掲げている面は否めない。

ほかにも実効性を疑いたくなる提言がある。学校の質の向上策として、教員の2割以上を社会人から採用することを掲げた。スポーツ振興のための「スポーツ庁」設置も検討課題になった。

大学改革では外部からの登用を促すため、国立大の「学長選挙の廃止」をうたう。国際競争力の向上を狙い、授業の30%を英語で行うことも盛り込んだ。

教育の改革にはスピードもインパクトの強い政策も必要だろう。だが、各委員の意見を並べたような提言では、説得力は乏しい。

経済協力開発機構(OECD)の調査が示す読解力や学ぶ意欲の低下といった難題を解決するには、互いを尊重しながら、自分で考える子どもを育てる教育を目指すべきではないのか。小手先の改革は教員や子どものストレスを増す。

会議の生みの親である安倍晋三前首相のカラーものぞく。安倍氏がこだわった「教育バウチャー制」は、学校選択制を通じて児童が多く集まった学校に予算を増やすモデル事業に盛り込まれた。道徳に代わる「徳育」の教科化、「親の学び」の支援など、論議が分かれる提言もあらためて登場した。

来年1月には最終報告を出す予定だ。あれもこれもと並べるならば、提言を繰り返す必要はない。