『河北新報』社説 2007年12月17日付

教職大学院/現場との連携、成否を左右


学力の低下傾向やいじめをはじめとする子どもたちの問題行動など、山積する教育現場の課題解決に向けて、教員養成専門の「教職大学院」が来年4月、宮城教育大など全国の19校に開設される。

実践を重視した多彩なカリキュラムを設定。研究や実習を通じて、主に現職教員らの指導力を磨き、中核的教員の育成を図るのが狙いだ。

教員の能力が向上すれば、結果として、学校の教育力が高まる。見立てに異論はない。教職大学院における人材養成は有力な方法でもある。ただ、当面、無条件で順風満帆にはいかないことを心すべきだろう。

今回、設立が認められた大学院は16都道府県、総定数706人にとどまり、効果が限定されそうな上に、運用の仕方によっては、現場の足並みを乱す恐れもあるからだ。

中央教育審議会が昨年7月、創設を提言してから、認可申請まで1年足らず。制度設計を十分に吟味する余裕がなく、急ごしらえの印象は否めない。

目標の達成には、カリキュラムの実現、大学院生の能力伸長を保証する学内の体制づくりと、小中高校や教育委員会の全面的な理解と協力が前提となる。

とりわけ、院生が研究を深めた理論を実践の場で鍛える「連携協力校」の支援は不可欠で、有能な教員の飛躍を地域の教育力強化に生かそうという各教委の前向きな姿勢も重要だ。

しかしながら、教育界の関心は必ずしも高まっていない。

将来のリーダーにふさわしい力量のある教員の進学が望ましいが、各教委は標準の2年間、抜けた穴を補充教員で埋めることへの不安をぬぐえない。

教員も少々、腰が引けているように見える。定員が少ないため、人ごとの心理が働く上に、修士号取得後の配置や処遇が不透明では、手を挙げにくい。

各教委の明確な戦略と現場の熱意が、大学院の滑り出しを左右することになるだろう。

国際的な学習到達度調査(PISA)でトップクラスを維持し、熱い視線が注がれるフィンランドは、大学院の修士課程を終えた教員がそろう。

環境が激変し、子どもの指導や学校運営の難しさが増している。近い将来、大学の教員養成課程を4年から修士修了までの6年間に延長、新人教員のレベルを高める方向に進まざるを得ないのではないか。

教職大学院は教職修士の原則確立への一歩で、宮城を除く東北の5県など未設置県の大学に開設を促す契機になる。

十分な教員の数の確保と質の向上を抜きに、教育の再生はあるまい。開設の意図を再確認するとともに、教育界が連携を強化し、精力的に準備を進めて、器に魂を吹き込んでほしい。