『朝日新聞』2007年12月14日付

女性研究者に優しいキャンパスに 関西で取り組み進む


出産や育児、介護などで研究を中断することが多い女性研究者を支援する取り組みが、各地の大学で広がっている。日本の研究者に占める女性の割合は約1割と、米国など他の先進国に比べて低い。少子化で研究者も減ることが見込まれるなか、多様な人材が能力をだせる環境を整えようと、国が支援に力を入れていることが背景にある。学内の保育園を拡充するなど、遅まきながら女性に優しいキャンパスづくりが進む。

神戸大は10月中旬、神戸市灘区のキャンパスで、若手の女性研究者向けの座談会「キャリアカフェ」を初めて開いた。ベテランの女性研究者の体験談に、約30人が耳を傾けた。

「子育ても仕事も丁寧にしたい。どうすればいいのか」。参加者が尋ねると、講師役のルイ・パストゥール医学研究センター(京都市)基礎研究部室長の宇野賀津子さん(58)は「頑張りすぎると体がもたない。私は家事育児を『60点主義』でやっていた。親や周囲に頼っていい。恩は後で返せる」と答えた。

中2と小3の娘がいる神戸大大学院工学研究科助手の横田久美子さん(44)=航空宇宙工学=は「これまで悩みを共有できる人を見つけられなかった。気分が楽になった」と感想を話した。

神戸大は、「育成研究員」に選んだ女性研究者向けに、週に10時間まで院生アシスタントを使えるようにするなどの支援策も今夏から始めた。同大学男女共同参画推進室の朴木(ほうのき)佳緒留(か・お・る)室長は「大学の女性支援は一般企業より10年遅れていた。問題点を改善して、女性の活躍の場を広げたい」と話す。

京都大は今月17日、女性の学生や研究者ら向けに、生後9週〜14カ月の乳児を預かる学内保育室(定員8人)を開く。すでに大学院生ら3人が申し込んだ。学内に以前からある認可保育所は、大学院生の場合、市の基準で「働いていない」とみなされ、ほとんど利用できなかった。

大阪大も来春、大阪府吹田市の吹田キャンパス内に二つある保育園の定員を現行の44人から99人に増やす。片方の園はキャンパス中央に置き、外壁に窓を設けて中の様子が見えるようにする。「女性研究者に希望を持ってもらいたい」という。

奈良女子大は、地域住民や学生らに有償の保育ボランティアを頼み、女性研究者の子どもの保育を手助けしてもらう「子育て支援サポーター」を来春にも始める。研究者が仕事で子どもを保育園に迎えに行けないなどの場合、サポーターに出迎えや家での一時預かりをしてもらう。

支援事業の責任者、富崎松代教授は「学内保育所は規模の小さい大学にとっては財政的に厳しく、住民や学生の善意に支えてもらう方法にした」と説明する。

各大学の取り組みの多くは、文部科学省が06年度に始めた女性研究者支援策を活用している。女性支援の優れた取り組みに、科学技術振興調整費から原則として年4千万円を3年間支給する。

内閣府の男女共同参画白書(07年版)によると、日本の研究者に占める女性の割合は11.9%(06年3月現在、民間の研究者や大学院の博士課程以上を含む)。文科省基盤政策課の担当者は「人材獲得競争は国際的に激しくなっており、さまざまな研究者を確保することは急務だ。これまで通りでは国の損失につながりかねない」と話す。