『日経ネット関西版』2007年12月8日付 知力立圏 第4部・競争力解剖(下)――産学官連携で意識にズレ、企業は手続き不満 近畿の「知」をさらに強める方策には「優秀な人材を近畿圏で育成する」(79.7%)に続いて「近畿圏内外の産学官が連携する」(58.0%)との回答が挙がった。「企業誘致」(21.7%)などを大きく上回り、産学官が共通して、互いに連携を深める必要性を認識していることをうかがわせた。 産学官連携が近畿の活性化にどう役立っているかを聞くと、「新商品・技術の開発」(89.9%)、「新産業の創出」(56.5%)との回答が上位を占めた。 ただ「雇用の創出」(26.1%)、「企業数の増加」(14.5%)といった回答は少なく、地域全体で連携の具体的な果実を得るまでには至っていない状況も分かった。 この結果を裏付けるように、産学官連携を巡る企業や大学、研究機関の意識のズレも浮き彫りになった。連携の課題を聞くと、企業の50%が「契約など手続きが複雑で研究成果の活用が進んでいない」と指摘。38.9%が「(大学や研究機関など)連携先の対応や手続きに時間がかかる」「機密保持が難しい」と手厳しい。 企業側からは「大学側に事業化意識が不足している」「開発に対するスピード感の差が大きい」との意見も出た。内外の厳しい競争にさらされている企業の論理からすれば、大学の対応は物足りないと映るのだろう。 ただ、手続きの煩雑さなどで研究成果の活用が進まないとの見方には大学(18.5%)、研究機関(11.1%)とも否定的だ。 むしろ大学や研究機関側の問題意識は「研究成果の売り先や入手先が見つからない」がそれぞれ5割を上回ったように、企業のニーズが十分把握できていないところにある。「大学の研究成果がすぐに商品になるわけではないし、売り先といっても大学職員が企業に営業をかけるわけにもいかない。技術移転は一朝一夕に進まない」(京都大学) 産学官の意識のズレをどう埋めるかという課題は近畿圏に限った問題ではない。ただ人材や資金に限りがある関西では、とりわけ総力の結集が求められる。 大学の一部には企業の声に応えようとする意識改革の動きも芽生え始めている。立命館大はすでに産学連携の窓口を一本化。さらに連携を加速するため「20人編成の特別チームが、企業側が求めている技術ニーズを各社に聞いて回り、大学内で埋もれている有力技術の開拓を急ぐ」(立命大理工リサーチオフィス)。 調査では、近畿の「最先端の知」の将来を占う狙いで、近畿の大学出身者などから自然科学分野のノーベル賞受賞者が増えるかどうかも聞いた。回答は「今までより減る」(36.2%)が「増える」(18.8%)、「変わらない」(26.1%)を上回る結果となった。 その理由には「大学の基礎研究パワーが落ちている」(企業)、「評価制度が導入され、短期的な研究に時間が取られて独創的な研究がしにくい」(大学)などが挙げられた。国立大学の法人化をきっかけに盛り上がる産学連携だが、不安な点も浮かび上がってきた。 |