『読売新聞』2007年12月4日付 検証 特区の学校(1) 株式会社立大学 入学者数で明暗 株式会社立の大学は明暗が分かれつつある。 「2007年度の学部部門の収支は5億5300万円の赤字となる見込み」 LEC東京リーガルマインド大学を経営する株式会社「東京リーガルマインド」は開校3年目の06年度事業報告に、こう記した。 07年度の学部入学者は目標の710人を下回る139人。この3月末での退学者も増えた。全国で14あるキャンパスのうち、通信制で開設した札幌、千葉など10か所の募集を停止し、東京の千代田区、新宿区、大阪市、横浜市の4か所だけに縮小することを決めている。 1月に文部科学省から、既存の資格試験予備校と大学の教室や講師を完全に分離するよう、改善勧告を受け、教室スペースの確保や、対面授業の増加といった措置を講じた。勧告は法令違反に対する措置。大学として初めての事態だった。 その後、違法状態は解消したが、9月には大阪での専任教員不在などで同省から留意事項を突きつけられた。経営環境は厳しい。 ◎ 母校について2年生の男子学生は「資格を取るという目的で入った。カリキュラムが変わって不便になったのは残念」と不満げな表情を浮かべる。大学の授業として受けていた予備校講座が大学の単位とならなくなったため、ダブルスクールの必要がないことを売り物にしてきた同大には、不満を持つ学生も多い。 今夏、LEC大を視察した文科省大学設置・学校法人審議会のある委員は「普通の大学とは違うと割り切って入学している学生には、むしろ迷惑なのかもしれない」と漏らす。 この委員は、首都圏のあるキャンパスで授業を見て「とても大学レベルとは言えないものだった」「学士号を取る予備校という学校種があるなら花マルをあげても良いが、大学としてはダメだ」と指摘する。 開設から2年目で募集停止が決まった宇都宮キャンパス。市の担当者は「定員は4学年で120人。実務を学んだ卒業生がそれだけ輩出されれば、市の経済にも利点が大きいと考えていた」と振り返る。撤退話に翻意を求めたが、「実際の学生は6人しかいない。経営を考えると無理にはお願い出来ないが、たった2年は早すぎる」とあきれ顔だ。 ◎ ただ、すべての株式会社立大学が難問にぶち当たっているわけではない。 経営コンサルタントとして著名な大前研一氏が学長のビジネス・ブレークスルー大学院大学(千代田区)は、ネット配信による講義と、ネット上の掲示板で繰り広げられる学生と教授のディスカッションが売り物のビジネススクール。ユニークさが国内外で注目を集め、昨年には米マサチューセッツ工科大学(MIT)の幹部も視察した。 ビジネスマンの認知度も上昇し、応募者数は定員の2、3倍。伊藤泰史副学長(47)は「ブランドイメージでハーバード大を抜くのが目標」と鼻息も荒い。 一方、グロービス経営大学院大学(千代田区)は経営拡大を目指して学校法人への転身を目指す。元商社マンの堀義人氏(45)が学長で、夜間通学型のビジネススクールだ。約15年間、経営管理を教えるスクールを運営しており、これまでに約3万人が学んだ。 大学院の学生数は定員を上回るが、株式会社立のままでは受けられない私学助成金や寄付金などでの税制優遇措置が、学校法人化を目指す最大の理由だ。「アジアナンバーワンのビジネススクール」が目標で、アジア各国から多数の留学生を集めるため、すべての授業を英語で行うプログラムの開設を目指している。 来春、開校予定のSBI大学院大学(横浜市)は、当初、特区を使った株式会社立学校開設を目指したものの、学校法人での開設に切り替えた。ライブドア騒動でも注目された総合金融サービス、SBIホールディングスの北尾吉孝・最高経営責任者(CEO)(56)が学長に就任予定で、「人間学を重視したビジネススクール」を目指す。 「文科省と相談し、学校法人での開設を決断した。LEC問題でのイメージ低下が最大の理由」と担当者。 株式会社による大学は曲がり角に来ているようだ。(宮本清史、写真も) ◇ ◆定員満たしたのは3校 構造改革特区制度は、地域限定で特定分野の規制を緩和、地域経済を活性化させる制度。小泉内閣時代に出来た。自治体が申請し、政府が認定する。2003年以降、教育分野では、191地域の計画が認定された。 従来は校地・校舎の自己所有が、学校開設の必要条件だったが、長期間借りられる保証があれば、設立が認められるようになった。この緩和措置で、学校設立のハードルが下がった。 自己所有要件の緩和を含む16の特例が、現在では、全国的に認められるようになっているが、株式会社立での学校設立そのものの特例は、マイナス面がはっきり判断できないことから、現在も地域限定のままだ。 特区を利用して誕生した株式会社立の大学・大学院は計7校。このうち、定員を満たしているのは、ビジネス・ブレークスルーとグロービス両大学院大とデジタルハリウッド大の3校にとどまる。内閣府構造改革特区担当室によると、来年度以降、新たに開設を検討している株式会社はない。 |