『産経新聞』主張 2007年11月26日付

大学再生 勉学意欲引き出す教育を


大学教育について、文部科学省の中央教育審議会が卒業認定の厳格化など抜本改革を検討している。学生の質や意欲の低下が心配されるアンケート結果もでている。全入時代を迎え、高等教育の質向上を真剣に考えるときだ。

「入るのは難しく出るのはやさしい」「受験勉強はするが入学後は勉強しない」という日本の大学、学生の実態は以前から批判されてきた。

中教審では10年前の旧大学審議会時代、授業に出なくても「優」が取れる大学教育には警鐘を鳴らし、単位認定の厳格化などを求めた。

その後、大学によっては、取得単位の平均成績が一定基準に満たないと進級させない米国型の「GPA(グレード・ポイント・アベレージ)」を導入するといった取り組みもみられる。だが、成績が悪ければ退学を勧告する厳しい姿勢の大学は一部だ。

大学は変わっていないという不信が強まり、逆に大学生の質低下への懸念はさらに広がっている。

総務省などの調査によると、学生の学習時間は1日平均3時間足らずで、学外での予習勉強は「ほとんどしない」学生が半数にのぼる。海外の大学生では考えられない数字だ。

東京大学の研究グループが全国の学生を対象に実施したアンケートでは、「授業はきっかけで後は自分で学びたい」という回答は約25%にすぎず、「必要なことは授業のなかですべて扱ってほしい」が約74%と圧倒的に多かった。「難しくてもチャレンジングな授業」を敬遠する傾向もでた。

学生を受け入れる企業側には大学教育への不満が強い。むしろ期待しない風潮の方が定着しつつある。

就職活動も早期化し、4年生の初めには内定してしまう。こうした状況にあって、大学で何を学ぶか、高等教育のあり方そのものが問われている。

中教審小委員会が卒業認定の厳格化などを提言した報告の中では、就職を過度に意識するあまり、大学が資格取得や専門学校のような教育に走る傾向にくぎをさしている。

大学は「入るのもやさしい」という全入時代を迎え、各学部・学科が教育方針を明確にして卒業させる責任がより高まっている。大学本来の責任と教育内容を再考してほしい。