『読売新聞』2007年11月23日付

[解説]教育予算 増額要求


教育予算が来年度予算の編成や審議の焦点の一つになりそうだ。教職員の増員などで文部科学省が例年以上の大幅増額を求め、賛否の動きが交錯している。(編集委員 中西茂)


「多忙さ解消」狙い 教職員増員財務省は猛反発

文科省は、これまでも教員の増員を求めてきた。しかし、「教育再生は我が国の最重要課題」「社会総がかりで教育再生」といったスローガンを掲げた今回は、教育重視を前面に押し出した安倍前内閣の置き土産的な予算要求になっている。教育基本法改正を受けた教育3法の改正、教育再生会議の後押しといった追い風を受けた要求だった。

教職員増の要求は7121人(3年間で2万1362人)。2005年度までの5か年の第7次定数改善計画でのペース(年5380人増)を上回る。国の総人件費抑制で改善計画が消滅した06年度からは300人余の増員しか認められておらず、その分も一気に取り戻そうという要求だ。これらは予算上の定数の増員で、実際には少子化による自然減があるが、その規模も以前より小さくなっており、実質的にも3年間で約1万4000人増の要求となる。

ただ増員要求の約半分は、学校教育法改正で新設された「主幹教諭」配置分。学校運営の管理機能を高めるため、校長や副校長・教頭の下に新たに制度化された職だ。教育基本法改正に始まる一連の改革の予算的裏付けという点では、理にかなってはいる。

また、昨年、40年ぶりに実施した教員の勤務実態調査を基に、残業代の代わりに支給されている教職調整額の増額を要求している分も大きい。さらに、小学校高学年で、理科などの専科の非常勤講師を採用する予算や、地域が学校を支える組織作りの予算も盛り込んだ。

こうした要求の背景には、教員の多忙さを解消し、子供と向き合う時間を増やそうという姿勢がある。

しかし、例年にない文科省の強気の要求に対し、財政健全化の観点から、財務省は猛反発し、多忙さや待遇を巡る文科省のデータに次々と反論。今月19日、財政制度等審議会が額賀財務相に出した建議でも、「教員の増員の必要はない」とくぎをさした。予算編成に向けた折衝は「とりつくシマがない状態」(文科省幹部)で、政治決着となるのは必至の情勢となっている。今月14日の経済財政諮問会議でも、増員計画を巡って、閣僚間で激論になった。

自民党文教族は文科省サイドに立つ「頑張る学校」応援団も結成。文科省は、町村官房長官や伊吹・自民党幹事長ら文科相経験者の影響力にも期待をかける。また、財務省サイドから「増員の前に事務の合理化や簡素化を進めるべきだ」と指摘されると、19日に学校現場の負担軽減プロジェクトチームを発足させるなど、様々な動きに出ている。

最大の壁は、閣議決定や法律だ。経済財政運営の指針である「骨太の方針2006」でも、「5年間で1万人程度の純減」をうたっている上、昨年6月施行の行政改革推進法は「児童生徒の減少に見合う数を上回る数の純減を行う」と明記している。増員に踏み切るには法改正まで必要になる。

この点では、民主党が同法の純減規定の削除などを求める改正案提出の準備を進めるという新たな動きが出てきた。参議院で与野党が逆転している現状では、野党の動きも従来と意味が違う。

ただ、そもそも、教員の増員や待遇改善を打ち出した教育再生会議の内部にさえ、「予算増より先にやるべきことがある」という意見が残る。簡単に結論の出るテーマではないが、厳しい財政状況下で、予算のメリハリをどこに付けるのか、最終的にはトップの判断になりそうだ。

雑務に追われる日本の教員に、子供と向き合う時間が少ないのは確か。教員の質向上には、様々な知恵も必要だが、多忙さの解消も、多忙さに見合う給与もないまま、現場の奮起を促せるのか。国会では、この点でも、将来を見据えた実のある議論をしてほしい。