『読売新聞』2007年11月14日付 文科省が5機関に予算重点配分、世界水準の研究拠点を目指す 文部科学省は、「世界トップレベル研究拠点プログラム」に、東京大と東北大、京都大、大阪大、物質・材料研究機構の5か所を選び、予算を重点配分して、世界最高水準の国際研究拠点を目指す。ただ、思惑通りに行くのか、課題も多い。 英タイムズ紙が今年発表した世界大学ランキングで、国内の大学は東京大の17位が最高と伸び悩む。上位の大学は、世界中から優秀な研究者を集め国際競争力を上げている。 同省の生川浩史戦略官は「『トップレベル』で世界水準の研究拠点をつくり、巻き返したい」と意気込む。各機関には、10年間、毎年十数億円を投入、総額は数百億円に上る。目指すのは、理工系研究に特化した200人規模の研究拠点で、うち3割は外国人。教授・准教授の過半数は、国際賞の受賞歴か世界レベルの論文を書いた実績を持つ人でそろえる。 公募には、22の大学・研究機関が名乗りを上げた。拠点が5か所に限られるため、「『超一流大学』と『一流大学』の分け目になる」と、危機感を持って選考に臨んだ大学も多かった。落選組の名古屋大の平野真一学長は「次の機会に大学を挙げて努力する」と悔しさを隠せない。 ただ、同省が、世界水準の研究拠点づくりと人材育成に取り組むのは初めてではない。2002年度から「21世紀COE(卓越した拠点)」を開始、274拠点に1億3000万円ずつ支援した。「ばらまき」の批判が出て、拠点を半数に絞った後継の「グローバルCOE」も今年度始まったばかりだ。 背景には、COEは旧文部省系の高等教育局、トップレベルは旧科学技術庁系の科学技術・学術政策局が推進するという、省内の縦割り体質がある。高等教育局の担当者は「トップレベルが唐突に出てきて混乱した」と打ち明ける。 世界レベルの研究者を集めることは重要だが、それだけで国際研究拠点ができるのか。大リーグ選手を集めて、国内にヤンキースタジアムを性急に作っても、チームを運営管理する戦略と、下支えする厚い選手層なしに、ハイレベルな野球は実現しない。 足もとの国内の研究環境の格差は広がり、地方からは悲鳴も聞こえる。北陸地方の国立大の研究担当理事は「旧帝大とは設備などで大きな差があり、努力にも限界がある。地方大はもう研究をしなくてよいということか」と嘆く。柳田充弘・京都大教授は「元々水準の高い研究組織に、巨額の予算をつぎ込めば、さらに格差が拡大し、対象から外れる多くの研究者の意欲を逆に下げる」と批判する。 大リーグ級の研究者が本当に活躍できる研究風土を築くためにも、国は、将来を担う若手研究者育成との連携をもっと強めるべきだろう。(安田幸一) |