『産経新聞』2007年11月10日付

東大が低所得家庭の授業料免除 地方大に危機感広がる


東京大学は来年度から、新たな授業料減免制度を導入し、国立大で初めて家庭年収400万円未満の学生の授業料を一律無料にする。金銭的問題から東大進学をあきらめる学生に門戸を広げ、優秀な“頭脳”を確保するのが狙いだ。京都大や大阪大は「同様の制度を導入する予定はない」と静観の構えだが、財政難に頭を悩ませる地方の国立大は「地元に残ろうと思っていた学生まで奪われてしまうかも」と危機感を募らせている。

東大によると、新制度は学部生を対象に授業料53万5800円を免除。入学金(28万2000円)は免除されない。

これまでの減免制度は、世帯収入からさまざまな特別控除額を引いた金額が基準額を下回った学生が対象だった。自宅・下宿や家族の人数の違いで基準額が異なる複雑な算定方式のため、簡素化した新制度を導入した。現行制度も残すという。

東大で授業料を全額免除されている学部生は全学部生の3%未満の370人(平成18年度)。新制度の適用を受ける学生は現在より1、2割程度増え、予算の負担も約9000万円増えるとみている。担当者は「財源は節電などこまめな節約で捻出(ねんしゅつ)する」という。

大学の負担が増える思い切った東大の新制度導入に対し、今年度までの東大と同様の減免制度をもつ京大や阪大は「興味はある」としながらも、現時点で追随はしない。

その理由について、全額免除の学部生が4.7%の阪大は「(東大の新制度は)これまで免除対象だった学生が免除を受けられなくなる可能性が出てくる」、京大は「すでに独自の免除枠を設けている」と説明するが、いずれも財政難の中、新たな負担増を避けたいのが本音のようだ。

さらに深刻なのが地方の国立大。寄付金集めが難しく、産学連携でも地理的に不利な地方大は都市部の大学よりも財政的に厳しいからだ。

中国地方のある国立大関係者は「財政的に豊かな東大だからできた取り組み。このままでは、経済的に地元の大学しか行けないと考えていた優秀な学生が東大に持っていかれてしまうかも」と話す。

別の中国地方の国立大担当者は「授業料免除になったからといって全員が東大を目指すとは思わない」としながらも、「東大ほど予算が潤沢にあればわが校でもやりたい」と打ち明ける。

今後の見通しについて、大手予備校関係者は「地方の優秀な学生の『狙い打ち』が東大の本当の目的だろう。今のところ、新制度によって東大志望に変えるのは各県で1人程度。入学までの経済格差が変わらないのに、入学後の免除だけで多くの学生に効果があるのか疑問」という。

一方、教育評論家の尾木直樹法政大教授は、家庭年収1000万円以上の学生の大学進学率が61%だったのに対し、400万円以下は34%にとどまったとする東大の調査結果を指摘。「経済格差が進学を決めており、今回の東大の取り組みには賛成。財政的に東大と同じ制度の導入が難しい地方大に対しては、国の支援を検討すべきだ」と話している。