『産経新聞』2007年11月7日付

地方の医師不足解消へ新システム 大学病院の機能強化し支援


地方の医師不足が深刻化するなか、文部科学省は来年度から、大学病院の医師を地方の医療機関に派遣する新しいシステムを構築することで医師不足の解消を目指す。地方の医療機関に派遣されている間もきちんと大学病院で人事情報を管理するとともに継続的に研修を受けさせるもので、医師のレベルアップにもつながりそうだ。(社会部 櫛田寿宏)

医師が免許取得後2年間、医療現場で経験を積む新しい臨床研修制度が平成16年にスタートしてから地方の医師不足が深刻化したと指摘されている。かつては大学病院が医療機関に医師を派遣することで地方の医療体制が維持されていたが、新制度は研修の重点を民間病院に置いたため、大学病院は必要な医師が確保できず、地方に派遣する医師がいなくなってしまったためだ。

大学病院は専門医を育てるためのプログラムを用意していないことも多く、臨床能力を備えた医師を育てる努力を怠っているとの批判もある。労働環境や待遇面でも都市部の民間病院に劣ることなどから若手医師の大学病院離れが進んでいる。もはや、大学病院の看板だけでは人は集まらないのが現状だ。

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文科省が推進しようとしている事業は、キャリア育成機能を高めることで大学病院の魅力を高めて人材を集め、連携する医療機関への医師派遣機能を再構築することを目標としている。

大学病院を「キャリア形成支援センター」と位置づけ、専任のコーディネーターを置く。大学病院は連携する医療機関に対して期間を区切って医師を派遣する。コーディネーターが人事情報を管理するので定められた期間が経過すれば確実に大学病院に戻れる。さらに、経験豊富な医師から助言を受けられるようにすることで、派遣される医師の不安を解消する。

医療機関に派遣されている間も大学が研修を支援するため、新しい知識が得にくいような離島や山間部にいても最新の研究成果を学ぶことができ、自己研鑽(けんさん)を続けたい医師の向上心に応えられるという。

大学教授らが巡回指導する際の交通費や滞在費も手当てする方針だ。研修にはインターネットを活用した学習システムも想定している。出産や子育てで現場を離れることが多い女性医師の現場復帰を支援するために制度を活用することも検討されている。

国公立、私立を問わず複数の大学がグループをつくって事業化。全国で20グループを見込んでいる。コンペを行って知恵を競わせることも検討中だ。

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来年度の予算は100億円を見込む。文科省医学教育課は「これまで地域医療は都道府県が担当してきたが、大学がその役割を担っていくようにする。医師が10年後、20年後を見据えて安心して仕事に打ち込めるよう支援していく。大学病院から医師を派遣することは、大学が医師の能力を保証することになるので、患者にとっても安心感が増すはずだ」としている。

国の医師不足対策としては、厚生労働省と文科省などは昨年、「新医師確保総合対策」をまとめた。青森、岩手、長野など10県について大学医学部の入学定員を平成20年度から10年間に限り、最大で10人増員することなどを決定している。