国大協企画第132号
平成19年10月26日

文部科学大臣
渡 海 紀三朗 殿

社団法人 国立大学協会
会長 小宮山 宏

平成20年度国立大学関係予算の確保・充実について(要望)

貴職におかれては、日頃から国立大学法人について深いご理解と力強いご支
援をいただいており、厚く御礼を申し上げます。

国立大学は、これまで、我が国における知の創造拠点として高度な学術研究や科学技術の振興を担い、また、高度人材育成の中核としての役割を担ってきたところであり、平成16年の法人化を契機として、その役割を再認識し、自らの中期目標・計画を達成するため一層の努力を重ねているところです。

その一方で、国立大学法人の財政的基盤である運営費交付金は、いわゆる骨太の方針2006 に基づき△1%の適用を受けてその総額が年々削減され、併せて効率化係数(△1%)が適用されていることから、各法人では各々が懸命の経営努力により対応しているものの、その努力も限界に近づきつつあります。

また、医師養成等の国の重要な機能を担う大学附属病院には、経営改善係数(△2%)の適用と併せて診療報酬の大幅なマイナス改定(△3.16%)等の外的な要因もあり、大きな影響が生じています。

さらに、国立大学の教育研究活動を支える施設・設備等については、施設整備費補助金等の削減により、その老朽・狭隘が著しく進んでおります。

このような運営費交付金・施設整備費補助金等の削減が続けば、今後数年を経ずして教育の質を保つことは難しくなり、更には一部国立大学の経営が破綻するばかりか、学問分野を問わず、基礎研究や萌芽的な研究の芽を潰すなど、これまで積み上げてきた国の高等教育施策とその成果を根底から崩壊させることとなります。

なお、国立大学が、厳しい財政事情の中で、独創的で優れた学術研究活動を維持・発展させていくためには、間接経費30%の措置を含め、科学研究費補助金の拡充も不可欠であります。

つきましては、貴職に対して我々の意をお伝えするため、別紙の事項について、要望いたします。平成20年度予算編成に向けて、国力の源泉としての役割を担う国立大学関係予算の確保・充実についてご理解をいただき、引き続き格段のご支援を賜りますよう衷心よりお願い申し上げます。

要望事項の要点

【要望事項1】
運営費交付金の拡充(総額△1%の撤廃)

我が国の発展の基礎を支える高等教育機関に対する公財政支出を増大すること。特に、国立大学法人の教育・研究活動が安定的・持続的に図れるよう、基盤的経費である運営費交付金を拡充すること。

また、骨太の方針2006に盛り込まれた5年間の運営費交付金の総額1%削減方針は、今期のみならず次期の中期目標期間にわたり、大学の教育・研究の基盤に重大な影響を与えるものであることから、これを早期に撤廃すること。

【要望事項2】
国立大学附属病院に対する財政的支援等(△2%見直し)

経営改善係数の適用による△2%を見直すとともに、平成20年度予算において、医師等の人材育成、地域医療の中核病院、地域医療体制の確立、高度先進的医療の提供など、国立大学附属病院特有の役割を果たすために必要な財政的支援を行うこと。

また、経営努力にもかかわらず、診療報酬のマイナス改定等、外的な要因による経営への影響により、実質的な赤字病院が16病院あるなど、附属病院の経営環境は非常に厳しいものとなっていることから、特段の配慮を講ずること。

【要望事項3】
教育・研究環境整備の予算の確保(施設・設備費の増額)

「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」に基づき、国立大学法人の教育・研究環境を計画的に整備するために必要な予算を確保すること。

また、イノベーションの基盤となる大型の研究施設・設備の整備や老朽化した教育・研究及び診療用設備の更新に必要な財政措置を講ずること。

【要望事項4】
科学研究費補助金の拡充(予算の拡充、間接経費の措置)

第3期科学技術基本計画及び骨太の方針2007に従って、競争的資金、特に、大学等で行われる学術研究を支える科学研究費補助金の拡充に必要な措置を講ずること。

また、研究環境の向上、適正な資金管理等に寄与する間接経費30%措置の早期実現に必要な予算を確保すること。

説 明

【要望事項1】
運営費交付金の拡充(総額△1%の撤廃)

我が国の発展の基礎を支える高等教育機関に対する公財政支出を増大すること。特に、国立大学法人の教育・研究活動が安定的・持続的に図れるよう、基盤的経費である運営費交付金を拡充すること。

また、骨太の方針2006に盛り込まれた5年間の運営費交付金の総額1%削減方針は、今期のみならず次期の中期目標期間にわたり、大学の教育・研究の基盤に重大な影響を与えるものであることから、これを早期に撤廃すること。

本来、国立大学が果たしてきた役割は、我が国の力強い成長と国際競争力向上の活力源となることであり、社会が国立大学に対してその役割を求める限り、その財政的基盤は安定的に担保されるべきものである。

そのためには、高等教育予算全体の増額が必要であり、国からの公財政投資を先進国並みに(GDP比0.5%を1%に)大幅に増額するように最大限の努力が求められている。国立大学の果たしている「国力の源泉」としての役割(国際競争力の源としてのナショナルセンターと、地域社会・経済を支えるリージョナルセンター)にご理解をいただき、国からの財政的支援を抜本的に拡充していただきたい。

また、骨太の方針2007 において「基盤的経費を確実に措置する」との記述がなされたことなどを踏まえ、国立大学法人における教育・研究の基盤である運営費交付金については、そもそも各国立大学法人が6年間の中期目標・計画期間を通じて安定的・持続的にその役割を果たすために必要な基盤的経費であることを充分に考慮した上で、運営費交付金算定の際、適用されている効率化係数△1%を見直すとともに、創造的・先端的な学術研究や我が国の発展の中核となる人材育成を着実に実施できるよう十分な予算を確保していただきたい。

骨太の方針2006 に盛り込まれた5年間の運営費交付金の総額1%削減方針は、今期のみならず次期の中期目標期間にわたり、大学の教育・研究の基盤に重大な影響を与えるものであることから、これを早期に撤廃していただきたい。

さらに、いわゆる骨太の方針2007 には、新たに大学・大学院改革に向けた今後対応すべき様々な課題が指摘されており、平成20年度予算では、その実現に必要な経費を確実に措置していただきたい。

【要望事項2】
国立大学附属病院に対する財政的支援等(△2%見直し)

経営改善係数の適用による△2%を見直すとともに、平成20年度予算において、医師等の人材育成、地域医療の中核病院、地域医療体制の確立、高度先進的医療の提供など、国立大学附属病院特有の役割を果たすために必要な財政的支援を行うこと。

また、経営努力にもかかわらず、診療報酬のマイナス改定等、外的な要因による経営への影響により、実質的な赤字病院が16病院あるなど、附属病院の経営環境は非常に厳しいものとなっていることから、特段の配慮を講ずること。

国立大学附属病院は、地域で活躍する医師の育成や生涯教育、新しい治療の開発や治験などの臨床医学研究、重症患者の治療や先端医療、災害時やがん治療などの拠点病院として、地域医療を守る最後の砦としての使命を果たしてきているが、法人化の際には想定されなかった診療報酬の大幅なマイナス改定等(△3.16%)の外的な要因により厳しい経営を迫られている。

この状況の中、附属病院は、懸命の経営努力を重ね、医業収入の増額を図っているものの、効率化係数(△1%)と経営改善係数(△2%)の適用も併せて、その努力は限界に近づいている。平成1 8 年度決算では、1 6 附属病院(42病院中)が実質的な赤字に陥っており、早急に対策を講じなければ大半の附属病院が赤字となる。

併せて、新臨床研修制度や新看護体制の導入をきっかけとした医師、看護師等の診療に必要な人材の確保に苦慮しており、医師・看護師の確保や離職防止等に必要な措置が講じられなければならない。

また、附属病院が地域の医療機関と有機的な連携をしながら、例えば、研修医や専門医の地域循環型の研修システムを整備していかなければ、地域医療体制の確保ができず、地域社会に対して多大な影響を与えることとなる。

高度先進的医療を提供するため、特に、附属病院を中心に実施されるがん専門医の養成やがんの診断・治療の臨床研究などに必要な措置を講じることは、我が国の医学・医療レベルの向上に寄与するとともに、安心・納得できるがん医療の提供を実現し、国民の期待に応えることに繋がる。

さらに重大なことは、現場の医師、教員は、教育・研究の時間を犠牲にして、医業収入増のための診療時間を増加せざるを得ず、医師養成機能の低下、臨床研究論文の減少を生み、国際競争力を低下させつつある。

したがって、今後も、附属病院に課せられた使命を果たし続けていくためには、経営基盤の安定化が不可欠であり、これに対する国からの財政的支援をお願いしたい。更に、我が国の医学・医療レベル向上のために、医師等の人材養成や高度先進的医療の提供などに必要な各種制度の整備をお願いしたい。

【要望事項3】
教育・研究環境整備の予算の確保(施設・設備費の増額)

「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」に基づき、国立大学法人の教育・研究環境を計画的に整備するために必要な予算を確保すること。

また、イノベーションの基盤となる大型の研究施設・設備の整備や老朽化した教育・研究及び診療用設備の更新に必要な財政措置を講ずること。

(施設費の増額)
国立大学の施設については、第3期科学技術基本計画で指摘されているとおり老朽化したものが増加している。

そのため、狭隘化・耐震性不足など安全・安心でない教育・研究環境にあり、全学的な視点に立った施設管理や新たな整備手法を導入しても、整備に必要な所要額が絶対的に不足している状況にある。

*国立大学法人の状況(平成18年5 月1 日現在)
国立大学法人が保有する施設 約2,500万u
うち経年25年以上の施設 約1,400万u(約54%)
うち未改修の老朽施設 約 800万u(保有施設の約1/3)

施設整備に関しては、昨年に引き続き、安全・安心を確保するための支援はもちろんのこと、さらに、若手研究者の自立促進のための環境整備や、世界的な教育・研究拠点の整備等に対する国からの絶大なる支援をお願いしたい。

(設備費の増額)
国立大学の設備については、近年、整備・更新のための予算が大幅に削減される中で、教育・研究及び診療が立ち行かないほど老朽化している状況にある。

各国立大学の整備計画等によると、今後の教育・研究及び診療用設備の整備に必要な経費は、総額1兆円程度と推定されている。イノベーションを創出し、我が国の国際競争力を高めるとともに、地域医療の中核としての役割を果たすために、大型研究設備の整備や老朽化した教育・研究及び診療用設備の更新は不可欠であることから、国からの絶大なる支援をお願いしたい。

*学術研究設備の状況(過去15年間)
平成 5〜 9年度 2,816億円
平成10〜14年度 1,461億円
平成15〜19年度 710億円

*診療設備の状況(過去15年間)
平成 5〜 9年度 2,075億円
平成10〜14年度 2,141億円
平成15〜19年度 1,242億円

【要望事項4】
科学研究費補助金の拡充 (予算の拡充、間接経費の措置)

第3期科学技術基本計画及び骨太の方針2007に従って、競争的資金、特に、大学等で行われる学術研究を支える科学研究費補助金の拡充に必要な措置を講ずること。

また、研究環境の向上、適正な資金管理等に寄与する間接経費30%措置の早期実現に必要な予算を確保すること。

我が国の学術水準の向上や国際競争力のある優れた科学技術の発展を図るためには、その基盤となる大学等で行われる学術研究(研究者の自由な発想に基づく研究)のすそ野を広げ、人文・社会科学から自然科学までの独創性・先駆性の高い研究を幅広く推進することが重要である。

こうした学術研究を支援する競争的資金である科学研究費補助金については、拡充が図られているものの、応募件数は増加しており、結果として、採択率は非常に低い状況であり、更なる拡充が不可欠である。特に、多くの地方国立大学の教員が応募する「基盤研究」や「若手研究」の充実に配慮いただきたい。

○ 平成19年度予算額1,913億円(対前年度0.9%増)

○ 採択状況
   平成7年度 → 平成12年度 → 平成18年度
応募件数 74,000 件 81,000 件 98,000 件
採択率 27.6% 21.6% 21.4%

また、競争的資金の間接経費については、各大学等における研究環境の向上や適正な資金管理などに寄与しており、第3期科学技術基本計画において、全ての制度で30%の措置をできるだけ早期に実現することとされている。

しかしながら、科学研究費補助金においては、一部の研究種目について、未だに間接経費が措置されていない。

(措置済)特別推進研究、基盤研究、若手研究(A)、学術創成研究費
(未措置)若手研究(B,スタートアップ)、特定領域研究、特別研究促進費、特別研究員奨励費

競争的資金の拡充及び間接経費の充実は、骨太の方針2007にも盛り込まれた事項であり、その中でも、科学研究費補助金の果たす役割の重要性に配慮し、予算額全体の拡充及び未措置の間接経費に必要な予算の確保について、必要な措置を講じていただきたい。