『毎日新聞』2007年11月6日付 公設民営の行方:岐路に立つ鳥取環境大/4 /鳥取 ◇「公立大学にすべきだ」−−高橋・横浜市大教授に聞く 鳥取環境大の今後のあり方、進むべき方向性などについて、「公設民営大学設立事情」などの著作があり、公設民営型の大学と地域の関係を研究している横浜市立大学(横浜市)の高橋寛人教授(50)に見解を聞いた。【構成・小島健志】 鳥取県においては、4年制大学が希少であるから、環境大の存在は重要で、採算を度外視して考えるべきだ(県内高校生の大学進学率、県内大学の収容力<率>を全国平均と比較してみれば歴然としているはずである※注)。 環境大の設置を計画した90年代後半の時点においては、18歳人口の減少とともに、文部科学省が大学の新増設を認めなくなるという予測が一般的であった。したがって、将来4年制大学の多くが定員割れになるとは誰も予測しなかった。しかし、その後の規制緩和の流れの中で、文科省としても新増設抑制政策がとれなくなった。したがって大学、環境大の設置について、当時の関係者の見通しが甘かったという批判は当たらない。現在、全国の4年制私立大学の4割が定員割れで、定員割れの多くは地方の小規模私立大学だ。 全国の公設民営大学のほとんどは、大都市圏の私立大学を誘致しても私学が進出してくれなかったために、自治体が自ら出資してつくった私立大学だ。誘致しても私学が来ないのは、大学経営が楽でない地域だから。したがって、定員割れとまではいかないまでも、学生確保に苦労することは宿命であり、当初からの前提だ。 県と鳥取市は、それでも大学が必要だと判断したからこそ、大学を設置した。この判断は先に述べたように、妥当であると考える。 環境大は県立大学(または市立大学)にすべきだ。公立大学になると授業料を下げなければならないので、授業料・施設設備費など学生の学校納付金は減る。しかし、公立大学になることによって、他県からの入学者が増えていく。他県出身学生が県内で4年間で使う生活費は数百万円にのぼるので、学校納付金の減少がそのまま県の損失となるわけではない(かえって増収になる可能性もある)。 公立大学にすると、偏差値ランキングなど、環境大が膨大な数の私立大学のリスト上ではなく、国公立大学のリストに掲載される。国公立大学のリストに掲載されることだけで、大学が全国の受験生に認知される。国公立大学に対する信頼と期待は高いので、公立に転換することだけで、県外からの受験生が増え、受験生の質が格段に高くなり、大学の評価も高まる。 公立大学は一般に私立大学よりも安定しているし、人々にそのように考えられているので、優秀な研究者が集まり、優れた研究者が他大学に引き抜かれることも少なくなる。優秀な研究者が集まれば、さまざまな地域貢献を大学に期待できる。 公立大学化に関する具体的検討は、ほぼ同時期に開学した島根県立大学が大いに参考になるはずである。 多額の公費を投入して大学を設立することを決め、その際にふさわしい学部は何かを検討した結果、現在の学部・大学名にしたのであり「環境」は今日その意義が高まっている。7年間という短い期間とはいえすでに伝統である。新しい大学・学部に替えることによって伝統を破壊するのは簡単である。しかし、伝統はお金をかけても簡単には得られない財産だ。学部改組や大学名変更は慎重にすべきである。伝統を生かし、発展させる方向での改革にすべきである。 ※注 文科省によると、06年度の4年制大現役進学率は全国の41・8%に対し県内は9・9ポイント低い31・9%。県内高校出身の4年制大学入学者のうち、今年度県内2大が収容した割合は、全国平均31・3%に対し13・2%だった。(つづく) |