『中日新聞』2007年10月30日付 増える博士、就職難 受け皿少なく 『将来が悲観的』 高度な専門知識を身につけた博士の就職難が続いている。背景には国が進めた「大学院重点化」と「ポストドクター(任期付き博士研究員、ポスドク)一万人支援計画」があり、大幅に増えた博士の就職先が極端に不足している。「科学技術立国」の基盤を揺るがしかねないだけに、産学官が協力して取り組みを始めている。 (栃尾敏) 「このままでは、日本の科学の危機」。十八日にポスドク問題を考える公開シンポジウムが東京都内で開かれ、大学関係者からは強い懸念が示された。参加した理系大学院生たちからも博士の生活や就職への支援を訴える声が相次いだ。 ポスドクは、「博士」の学位をとった後、最長三−五年の任期付きで大学などの研究機関に勤めている人たち。終身雇用ではないため身分が不安定で、企業に就職しようとしてもなかなか定職に就けない。そうした現状をみている大学院生や学部学生が、科学者や研究者の道に進むことをためらうケースも出ている。 一九九〇年代に始まった旧文部省の大学院重点化で大学院の定員が増え、それに伴いポスドクも急増。文部科学省によると二〇〇五年度は一万五千人を超えた。これに対し、大学や公的研究機関などで終身雇用の職を求めようとしても受け皿は不十分なままだ。 また、企業への就職も難しい。日本経団連がまとめた企業アンケート(今年二月)では、新卒採用(技術系)の七割が修士で、博士は3%。博士の採用を増やしたい企業は一割にとどまった。七割の企業は給与・処遇面で博士への優遇措置はない、と答えている。 さらに、「専門知識・専門能力」「研究遂行能力」「論理的思考能力」を高く評価する一方、「コミュニケーション力」「協調性」などに問題があるとしている。 こうした厳しい状況の中で開かれたシンポジウムは、博士取得者や科学者を目指す学生が明るい展望を持てるように、産学官が協力して取り組むきっかけにするために日本学術会議が企画した。 現状分析した宮島篤・東大教授は「ポスドクが増え、日本のサイエンスレベルは質量ともに確実に上がっている」と評価。一方で「なかなか常勤職に就けず、ポスドクの九割ぐらいが将来を悲観的にみている」と窮状を。「大学は年々、運営交付金を減らされている。受け皿は企業に期待するしかない」と話す。 企業人の立場で発言した竹中登一・アステラス製薬会長は「一般教養よりも専門性と人間性を求めている」と話し、専門・研究能力を磨くことを要望。大垣憲之・リクルートエージェント執行役員は「企業が消極的なのは、高学歴人材への否定的な先入観や受け入れ態勢の未整備が原因。企業の採用意欲が高い今こそポスドク採用の成功事例を増やすチャンス」とアドバイスする。 シンポジウムを企画した一人、中野明彦・東大教授は「大学が責任を持って学生を育てる意識を持つことが大切。学生も大学に入ってくるからにはノーベル賞を目指してほしい。かなわなくても研究者になってよかったと思えるよう、(ポスドクの)進路をたくさんつくりたい」と話し、「大学と文科省はポスドク問題を真剣に考えている。企業も関心を持っており、いい方向にいくことを信じたい」と期待する。 |