『産経新聞』 2007年10月25日付 大学ブランド「食」をリード マグロ、バーガー…培った研究成果を商品化 大学発の食品が、一般消費者の口に入るようになってきた。研究の過程で生まれたオリジナル商品やファミリーレストランとのコラボレーションによる新メニューなどが続々登場。健康ブームや食の安全が叫ばれる中、人気も上々という。日本のブレーンが生み出す「食」とはいかに−。(蕎麦谷里志) 「マグロなど脳に良い食材を集め(歯の悪い)お年寄りにも食べやすいリゾットにしました」 審査員を前に、緊張した様子でプレゼンテーションをするのは、東京農業大学栄養科学科1年、石川しおりさん(19)。料理を口にした審査員が「うん、うん」とうなずくと、満足そうな笑顔を浮かべた。 農大がファミリーレストラン「ロイヤルホスト」を展開するロイヤルと連携し、今月13日に行われた学生による料理コンテスト。書類審査を通過した男女13人が、独創的な料理を披露した。 メニュー化賞もあり、審査の結果、食料環境経済学科3年の芳賀貴憲さん(20)の「和・農大バーガー〜ゆず味噌(みそ)ソース〜」が受賞。来年3月から、全国のロイヤルホストで提供されることになった。 同社第1企画開発課の梅田真菜子課長(42)は「農大生にとっては、メニューを考え、商品化される過程を知る機会になる。ロイヤルとしても若い人の好みが分かる」と双方のメリットを強調する。 大学ブランドが増えている背景には、国立大の法人化や少子化により、特色を打ち出さなければ勝ち残れないという危機感がある。 「(公立大なら)税金を使っており、国民への説明責任もあるため、大学で開発された技術を還元しようという動きが出てきた。大学も以前のような象牙の塔ではいけない」と指摘するのは、北海道大学農学部の服部昭仁教授(62)。 昨年春、同大から発売されたハム「永遠(とこしえ)の幸(さち)」は、服部教授らが40年以上前から蓄積してきたハムの製造技術を基に、地元メーカーが製造。肉の風味を最大限に引き出す製法が特徴で、購入者からも好評という。 近畿大学は、絶滅が危惧(きぐ)されるクロマグロの完全養殖に世界で初めて成功。「近大マグロ」として、3年前から販売している。いけすで飼育するため、通常よりも脂が乗って“全身トロ”と好評で、関東では東京・日本橋三越本店で毎週金曜日に発売されている。 東京大学のアミノ酸研究から誕生した「東大サプリメント」や早稲田大学と京都大学が共同で古代エジプトの麦を使ったビール「ホワイトナイル」を開発するなど大学オリジナル商品は数多い。 ロイヤルと連携した農大も、農学を専門に扱う日本唯一の大学とあって、オリジナル商品はさまざま。エミューという鳥の卵を使ったどら焼き、屋久島で採れるかんきつ類タンカンのジュースなど他では味わえない“珍品”も目立つ。 一番人気は「カムカムドリンク」。カムカムはペルー・アマゾン流域に自生する果実。地元の住民が栽培し、麻薬の原料にもなるコカの代替作物として、同大がカムカムの栽培指導を行ってきた背景もあり、麻薬撲滅にも寄与しているという。 商品化を手がけた同大国際食料情報学部の豊原秀和教授(59)は「大学がやるからには、単なる商売になってもいけない。社会貢献につながるものを提供していきたい」という。 利益追求ではなく、食の研究に地道に取り組んできた大学だからこその商品に、注目が集まっている。 |