『佐賀新聞』2007年10月22日付 佐大の総合大学院構想暗礁 就職など展望懸念? 佐賀大(長谷川照学長)の総合大学院構想が暗礁に乗り上げている。医学、経済学、教育学、理工学を融合させ、社会ニーズに対応した研究コース新設を狙うもので2007年開設を目指していた。背景には就職など将来展望が見えない新分野での学生確保への懸念、学部再編波及への抵抗感などが見え隠れし、学内の議論は足並みがそろわず停滞している。 同構想は、研究能力の高い人材が集まる博士課程の充実に力点を置く。現在ある経済、教育、工学、医学の各研究科を一つの総合研究科に統合し、文系、工学系、医学系、学際的分野の専攻、コースを整備する。研究力向上につながるだけでなく、研究拠点としての認知度アップ、そして少子化時代の学生確保も期待できるとの声もある。 当初、07年開設を目指して05年には理事、各学部長らでつくる検討委員会を設置した。医学と社会福祉を組み合わせた「ヒューマンケア」や経済学と工学を融合した「MOT(技術経営)」などが浮上したが、各学部段階で議論がストップしたままだ。 「各学部で大学院への考え方が異なり、全学的なビジョンをまとめるまでに至らなかった」。長谷川学長は学内にある温度差を、そう指摘する。 これまで博士課程がなかった文系。経済学研究科では外国人留学生が占める割合が30人中25人と高く、日本人学生のニーズが低い。教育学研究科でも「学位取得というより就職浪人という形で進学するケースも少なくない」(文化教育学部の教員)。修士課程でさえ厳しい状況で、より高度な博士課程を運営できるかという不安もつきまとう。 さらに博士課程新設と連動する形で国際学部構想も含めた文系学部の再編論議も始動。中には自らの立場に不安を抱く教員もあって文化教育、経済学部とも抵抗感が強く、「これも大学院改革の話が進まない一因」(長谷川学長)という。 また学際分野の専攻設置のハードルは高い。幅広い分野が融合するため既存の学部の専攻と直結しておらず、「学部から大学院への進学の道筋がはっきりしていないと、学生がスムーズに来ないこともある」と理工学部の教員。博士の学位を取得しながら定職につけない「オーバードクター(余剰博士)」が増えていることを挙げながら「就職のルートを確保しないと学生集めも苦戦するのでは」と総合研究科への不安を明かす。 同大では、2015年までの大学の中長期ビジョン(将来構想)を策定中で、その中にも大学院改革を盛り込む。 「一つの研究科にするという形から議論に入っていたのでうまく進まなかった」と長谷川学長。その上でシンクロトロン光や有明海総合研究、農業分野のMOT教育など新たな研究が生まれている現状を踏まえて「これらは大学院の核になりうる。現場から出てきた芽を生かすという視点から論議を深めたい」と2015年までに開設のメドをつけたい考えだ。 【修士、博士】大学院で一定の課程を修了し、学位論文の審査が通過した時に取得できる学位。通常、修士課程が2年、博士は3年で、修士を取得しないと博士課程に進めない。研究機関や大学の研究者採用で、修士、博士の学位を受験資格としているところも多い。 |