『山陰中央新報』2007年10月18日付 がんプロフェッショナル養成プラン 島大など2大学と連合で 鳥取大学副学長 井藤久雄 わが国でがんが死因の第一位になったのは一九八一年。その後もがん死は増加し、現在では国民の約50%ががんになり、約30%が死亡している。今後がんは増加し、二〇一五年には新規患者八十九万人、累積患者数は五百三十三万人に達することが予測されている。「がんの二〇一五年問題」である。 ようやく、国を挙げてのがん対策が始まった。がん対策基本法が今年四月一日に施行された。その基本理念は(1)がんの予防・早期発見の推進、(2)地域差のないがん医療の体制整備、(3)がん研究の推進と臨床応用である。 これを受けて「がん対策推進基本計画」が六月十五日に閣議決定された。具体的な目標は(1)十年以内に七十五歳未満のがん死亡率を20%減少させる、(2)患者・家族の苦痛軽減と生活の質の維持向上だ。また、重点課題として(1)放射線、化学療法の推進と専門医の育成、(2)治療初期からの緩和ケア、(3)がん登録の推進、が掲げられている。 問題点も多い。現在、臓器により13−23%と低迷しているがん検診の受診率を五年以内に50%以上とすることが示されたが、その実施主体があいまいで「市町村の努力義務」にとどめた。要するに財源の裏付けがない。また「喫煙率半減」の数値目標設定が議論の途中で立ち消えになった。 もっと大きな問題はがんを専門とする医療人の育成である。例えば、日本臨床腫瘍(しゅよう)学会が認定するがん薬物療法専門医は四月現在、全国で百二十六人にすぎない。しかも偏在が著しい。制度が異なるとはいえ、米国ではがん化学療法を専門とする腫瘍内科医が約九千九百人いる。中国五県では三十一病院が「がん診療連携拠点病院」に指定されているが、がん専門医療職は明らかに不足している。 がん対策を人材養成の面からけん引する取り組みが文部科学省医学教育課の進める「がんプロフェッショナル養成プラン」で、大学改革推進事業の一環である。本プランにはいくつかの特色がある。 主眼はがん医療に携わる人材の育成であり、主たる対象は医学科の大学院生であるが、コメディカル、すなわちがんを専門とする看護師、薬剤師、放射線技師なども養成する。さらに、各種専門医資格を有する医師が腫瘍専門医取得するための資格取得のプログラムを提供する。 本プランの舞台は大学院であり、大学院におけるがん教育の実質化・活性化が求められている。 全国で十八のプランが採用されたが、いずれも複数大学が関与するコンソーシアム(連合)方式である。医学教育課が大学間の協力、相互支援を求めており、政策上の強い意志がうかがわれる。これまで研究室間、講座間の交流や共同研究はあったが、学部・研究科単位で一つの任務に取り組むことはなかった。 鳥取、島根、広島大学はそれぞれに独自のがん医療人養成に取り組み、医師、看護師、薬剤師などを対象とした四コースが大学院研究科の中に設定された。がん医療人の育成には診療科や職種間の垣根を取り払う必要がある。がん診療はチーム医療である。 三大学が人材育成を効率よく行うため(1)教員などの人材交流、(2)大学院研究科の授業を電子媒体で受講可能とした上での単位互換、(3)三大学間のテレビ会議システムで症例検討、(4)コメディカルを対象とした講習会の開催、(5)合同のミニシンポジウムを共同で実施する。さらに、がん診療連携拠点病院との連携を強化するために、情報提供や症例検討会への参加を可能とすることで合意した。 中国地方は広い地域であり、中山間地や離島を含むことから、がん医療機関の分布が均一でない。がん医療の均てん化は大きな課題だ。それを可能とするのは各大学の特徴ある人材の有効活用が鍵となる。 がん医療は日本の医療が抱えているすべての問題を包含する象徴的分野と言っていい。医師不足、地域格差、チーム医療、緩和ケア、在宅医療、セカンド・オピニオンの実施などである。 本コンソーシアムの任務は重要で、しかも息の長い取り組みである。その第一歩を三大学医学部は既に踏み出した。 |