『日本農業新聞』論説 2007年10月8日付

農歯医工学連携/枠を超えた新たな視野を


北海道の帯広畜産大学と北見工業大学は「農歯医工連携講座」に取り組んでいる。大学の枠や学問領域の垣根を越えて農業系大学と工業系大学、そして歯医学など、研究分野の違う大学や研究者らが、「住民の健康」を統一テーマに考えようという珍しい試みだ。2005年度から北海道の帯広市と北見地域で展開しているセミナーには、地域の医者も参加し、次第に広がりを見せている。

農業は食という人間の命に関与する領域を究める学問だ。しかし、食料はできてもそれを食べるためには健康な歯や高度な入れ歯技術が必要であり、「それなくしては人間の健康はあり得ない」というのが「農歯医工連携講座」をスタートさせた理念だ。

同様な取り組みはいくつかある。大学内の連携ではあるが、慶応義塾大学では医学部が中心となって理工学部に呼び掛けて医学部・工学部連携連絡協議会を結成、また、早稲田大学では2000年に東京女子医科大学と学術協定を結び、医工学でさまざまな共同化を図った。

世の中は複雑だ。単純なものの見方だけでは不十分。単一の学問だけで対処しようとしても限界がある。しかし、学問の世界は、多くが、いわゆる縦割りの世界のため、学問のダイナミズム(力強さ)を十分に発揮できないことも多かった。そのような状況を打破しようと文部科学省は08年度から、大学間でのさまざまな提携を支援する「戦略的大学連携支援制度」を実施する。これは国公立私立という枠組みを超え、教育・研究の充実を図ろうというもので「骨太の方針」でも重点の一つとされている。

大学間連携というと、一般的によく知られているのが「単位互換制度」だ。これはカリキュラム(教育課程)を共有して、学生が取得した単位を大学同士が認め合うというもので、すでに多くの事例がある。しかし、支援制度の狙いは、教員の研修や人員不足対策に使えないかという考えや、地域の生涯教育授業など、もう少し幅が広い。

各大学は近年の大学改革の名の下に、それぞれの強みを核に個性化を進めてきた。ところが、国立大学は法人化に伴って国からの運営費交付金が毎年減額されることや学生数の減少などの影響もあり、地方の大学や小規模の大学では、財政的にかなり厳しくなっているという。そのため、幅広い領域をカバーする人材を用意することができず、人材不足を来している大学も少なくない。そこで、その人材不足を大学間や学問の枠を超えた交流で補えれば、という考えもあるようだ。

とはいえ、各領域の研究者らが、例えば人間の健康というテーマで協力し合うというのは貴重なことだ。農学の分野でも幅広い研究者の交流で、新しいものの見方が研究を後押しすることもある。新たな展開を期待したい。