『北海道新聞』社説 2007年9月20日付

大学9月入学 いろいろな課題がある


大学の九月入学は、そう簡単に実現できるものだろうか。

文部科学省が、「原則四月」としている入学時期を見直し、大学側が自由に決められるようにする方針だ。九月入学の拡大を後押しする狙いだという。

入学時期を多様化し、選択の機会を増やすという改革の方向性は、間違いではないだろう。外国留学生や帰国子女にメリットがあることも確かだ。

ただ、大学側にとっては、九月入学に移行するためには大きな経済的負担が伴う。学生の就職や企業の人事面での影響も少なくない。

文科省が、本気で九月入学を促進しようと考えているならば、社会に与える影響を十分に検討し、対応策を練り上げる必要があるだろう。

文科省は、九月入学を促進する理由に「大学の国際化」を挙げている。

優秀な留学生を国内の大学に集めるためには、入学時期を欧米に合わせ、日本に留学しやすい環境を整える必要があるという見解だ。

もっともに聞こえるが、留学生を集めたいのであれば、まず大学の教育内容の質を高めることが先だろう。

外国語での授業の拡大や、他国と単位を交換できるようなカリキュラム編成など、大学側の努力も大切だ。

入学時期を秋にすれば国際化が進むと文科省が考えているなら安直だ。

就職への影響も大きい。たしかに外資系など一部の企業では採用時期を通年化する動きがあるが、「四月入社」の慣例を取る企業はまだまだ多い。

文科省は、九月入学が増えれば企業の通年採用が増えると言うが、そうだろうか。人事や給与体系について、春採用の高卒者とどう整合性を取るかなど、企業が抱え込む問題は深刻だ。

大学経営への打撃も無視できない。四月から九月への移行に伴い、大学側には半年間、入学金や授業料収入がゼロになる。経営上は相当な負担だ。

現行制度でも、学年の途中で学生を入学・卒業させることが大学に認められている。二○○五年度は百五十三の大学が九月入学を実施した。学生が集まらず、募集停止した大学もある。

失敗例もある以上、文科省がいくら尻をたたいても、どれだけの大学が九月入学に踏み切るか、疑問だ。

文科省が、九月入学を検討したのは二十年も前だ。中曽根康弘内閣の臨時教育審議会が一九八七年の答申で「秋入学」制度導入を初めて提唱した。

立ち消えになっていた九月入学が復活したのは今年六月、安倍晋三首相の意を受けて政府の教育再生会議が「大幅促進」の方針を示したからだ。

だが、再生会議が九月入学の是非や社会への影響を真剣に検討した形跡はない。社会全体の仕組みを考慮せず、大学の入学制度をいじるだけでは、改革は前に進まないだろう。