『読売新聞』社説 2007年9月19日付

新司法試験 教授の問題作成は誤解を招く


新司法試験に対する不信感は払拭(ふっしょく)されていない。さらなる改善が必要ではないか。

法科大学院の修了生を対象にした新司法試験の合格者が発表された。4607人の受験者のうち、1851人が合格した。合格率は40%だった。

注目されていたのは、慶応大法科大学院の修了生の成績だった。新司法試験の出題と採点に当たる考査委員を務めていた同大学院の教授が、本番の問題と類似したテーマを事前の勉強会で学生に教えていたことが明るみに出た。教授は考査委員を解任され、大学を辞職した。

慶大の合格者は173人で、東大に次ぎ2位だった。合格率64%は、東大の59%を上回っている。

問題発覚後、法務省は、得点調整をするべきかどうかを検討した。慶大の教授と同じ分野を担当する考査委員が答案を分析した。その結果、得点調整を見送った。漏えい疑惑があった問題で、慶大よりも正答率が高い法科大学院が複数あることなどが理由だ。

ほかにも同様の指導をした法科大学院があるのでは、という疑念も広がった。法務省は、勉強会の開催などを自主申告した約10人の考査委員から事情を聞き、「いずれも補講などであり、問題はない」と結論付けた。申告のなかった考査委員は調査しなかった。これでは、調査を尽くしたとは言えない。

法務省は、考査委員制度の改善策を発表した。現在は、全体の約半数の74人を法科大学院の教員が占めている。これを試験の問題作成時には38人に半減させ、採点時に追加任命する方式に改める。

2009年の試験からは、考査委員が大学院の最終学年や修了生を指導することを禁止する。

鳩山法相は、法科大学院の教員は考査委員を兼ねるべきではない、との原則を示した。その一方で、「新司法試験の内容と法科大学院教育が連携する必要がある点も無視できない」とし、兼務の必要性も認めている。

74校に上る法科大学院間の競争は、激しさを増していく。大学にとっては、合格者数の多さが、学生を集めるセールスポイントになる。今後、実績を残せない大学院が淘汰(とうた)されていく状況は、避けられないだろう。

法科大学院の教員が新司法試験の問題作成も兼ねる制度が残る限り、「合格者数を維持したかった」という慶大の教授と同様の問題が起こりかねない。

今回の改善策は過渡的な措置として、法科大学院の教員はやはり考査委員から外した方がいいのではないだろうか。