『読売新聞』2007年9月19日付

大学の地域貢献(12)
シニア狙い 「旅気分」講座


大学の「知」を観光とつなぐ取り組みがある。

世界文化遺産の合掌集落から車で5分ほどの研修施設「トヨタ白川郷自然学校」(岐阜県白川村)。岐阜大学の「シニアサマーカレッジ」の参加者たちは、この施設で、合掌造りの家の構造や保存活動、江戸時代の白川村の食生活や経済活動の講義を受けた。

「かやぶき屋根の厚みが約1メートルなら、必要なかやの量は300立方メートルですか」「屋根のふき替えは何日がかりで行うのか」。参加者から次々に具体的な質問が飛び出す。

「シニアの方たちは質問も鋭く積極的で、こちらも刺激を受ける」と同大地域科学部の合田昭二教授(63)(地理学)。講義の後は、教育学部の馬路泰蔵(まじ)教授(63)(栄養学)に案内されながら、コスモスが咲き始めた合掌集落の里を散策した。

2週間のサマーカレッジは、大学での座学が基本だが、白川や、古い町並みが残る城下町・古川での学外講義も盛り込まれている。参加者は古川でも、同大の教授や地域の専門家から、滞在型観光を考える講義などを聞いた。

参加者は50、60代の7人。「ガイドブックには載っていない深い所まで分かり、好奇心が満たされる」(千葉県の女性)「長い第二の人生、自分から求めて得ていく方が、生き生き楽しめる。単なる座学だけでなく外に出る楽しみもある」(横浜市の男性)と、評判は上々のようだ。



旅気分も味わいながら、地域の伝統、文化、自然などの魅力を理解するというこの企画は、旅行会社のJTBとの共催だ。50歳以上が参加の条件で、受講料は2週間で一律13万円。知的好奇心を満たす長期滞在型の旅行とも言える。

地域にとっては新しい観光開発につながり、経営努力が求められるようになった国立大学にとっても、夏季休暇中の空き教室を利用した新たな収入源の確保につながる。初めて企画された昨年は、弘前、山口両大学で好評を博し、今年は9大学が開講を予定した。目標の定員は各大学30人だ。

だが、実際には香川、高知、山口、宮崎の4大学は受講者が予定を大幅に下回り、開講を断念した。山口大の担当者は「開講する大学が増えたため、受講者が分散した。夏なので暑い地方が敬遠されたことも原因ではないか」と分析。来年以降は、開講時期も含め検討し直すという。

一方、最多の49人を集めた岩手大学は、涼しさの利に加え、宮沢賢治や石川啄木、遠野や平泉といったメニューを前面に出したことが奏功したとみる。

岐阜大でも「次回はもっと参加者を集めたい」と意気込むが、参加者の中には「人数が少なく、アットホームな形だったのが幸運だった」という声もあった。大勢だと教授の解説も聞きづらく、単なる観光になっていたかもしれないと心配したからだという。

要望が多様なシニア世代を相手にする企画は、一筋縄ではいかないようだ。(野口賢志、写真も)

シニア狙う大学 関西大は来年度から、神戸市内に建設中の「カレッジリンク型シニア住宅」入居者に文学部の受講資格を与え、出張講義も行う。東京経済大は今年度から、大卒後30年以上が資格の「シニア大学院」を新設した。関西国際大も昨年度から60歳以上対象の「シニア特別選考」を開始、奨学金を支給している。