『朝日新聞』社説 2007年9月18日付

法科大学院―乱立のつけが回ってきた


法科大学院の修了者が挑んだ新司法試験に1851人が合格した。

そのひとりで、山梨学院法科大学院を出た33歳の男性は、塾講師からの転身だった。入学まで法律とは縁がなかったが、専門分野を持ちたいと弁護士をめざした。3年間、寮暮らしをしながら教室と図書館で週70時間ほど勉強した。

「法科大学院で学べなければ、合格はなかった」と男性は語る。教員として指導した弁護士は「論理的に考える習慣を身につけていれば、ゼロから始めても合格できる」と話す。

専門知識だけでなく、豊かな人間性と思考力を備えた法律家。こうした人材を大量に養成するため、法科大学院は法律を学んだ人ばかりでなく、他の分野からも人材を集め、じっくり養成する。

それは、受験技術だけを競うようになった旧司法試験の反省からだ。

法科大学院には、2年間の法学既修者コースのほかに、3年間の未修者コースが設けられた。新司法試験は昨年スタートしたが、未修組が受験するのは今年が初めてだった。

冒頭の男性のような未修組の合格率は、受験した68校平均で32%だった。既修組の合格率は46%だから、やはり難関だったことになる。

未修者間ばかりでなく、大学院間の競争も激しく、上位校と下位校との格差も目立つ。未修者の合格率が10%を下回る大学院が8校、合格者ゼロが2校あった。こうした大学院は、未修者のほとんどを合格水準にまで育てられなかったことになる。

学生の募集や教育の方法で、どこに原因があったのか。各大学院には検証と改善が求められる。文科省認定の第三者機関が法科大学院を対象に教育内容などについて評価をしている。その評価も厳格にしてもらいたい。

司法改革では、大学院修了者の7〜8割が合格できるのが理想とされていた。しかし、法学の未修、既修を含めた全体の合格率は今回40%で、昨年の48%を下回ってしまった。

合格者の枠はしだいに増え、10年には3000人になる予定だ。だが、合格率がそれほど上がることはないだろう。法科大学院74校の総定員が約5800人にのぼり、浪人組も受験に加わるからだ。

生き残り競争の激化で心配なのは、不正が入り込まないかということだ。

試験問題をつくる考査委員だった大学院教授が、答案作成の練習会を開いて疑惑を招いた。そのようなことが二度とあってはならない。法務省は大学院からの考査委員を減らすというが、大学院からの起用は一切なくした方がいい。