『毎日新聞』2007年9月18日付夕刊

無利子奨学金:申請急増、10万人夢しぼむ 成績上位者優先で生活保護世帯も涙


◇「格差広げる」教諭ら怒り

大学、短大生らに無利子貸与する日本学生支援機構(旧日本育英会)の奨学金制度を巡り、成績や所得などの基準を満たしているにもかかわらず、貸与対象から漏れた高校生が今年の選考で約10万人にも上った。中には生活保護世帯の生徒も含まれていた。申請者が急増する中、結果的に所得よりも成績上位の生徒が有利になったためとみられる。だが、高校の関係者らからは「教育格差を広げる」と不満の声が上がっている。【大場弘行】

同機構によると、大学進学後に月額最高6万4000円の無利子貸与が受けられる基準は、高校時代の成績の平均値が3・5以上(最高5・0)。所得制限が4人家族のサラリーマン世帯で年収916万円未満と比較的緩やかなことなどから、基準を満たした申請者は05年度の約8万人から08年度は約13万人に急増した。一方、貸与枠は06年度以降、3万4000人のまま据え置かれており、来春進学の生徒の4人に3人が不採用になった。

大阪府では今年、基準を満たした高校生1万554人のうち、全国最多の8461人が不採用となり、生活保護で暮らす府立高校の女子生徒も受けられなかった。成績は4・0を上回り、大学進学を目指していたが、進学するかどうか悩んでいるという。

府内の教諭らでつくる「府立学校人権教育研究会」は、生活保護世帯の生徒の不採用者が、05年度に2人、06年度に1人いたことを確認している。実際はさらに多いとみられ、女子生徒が通う高校の教頭は「無利子にすがるしかない親と子は、有利子と聞いただけで尻込みする。国費を投じる奨学金の役割とは何なのか」と憤る。

同機構は「学力3、家計5、人物2の割合で選考し、父子、母子家庭か、家族に障害者がいるかなど個々の家族事情に配慮している」と説明。有利子貸与や進学後に申請できる無利子奨学金制度で不採用者に対してはフォローしているという。

◇進学後も有名大優遇

ただ、進学後の奨学金枠は有名大学に集中しており、ある府立高校の奨学金を担当している教諭(58)は「倍率が高まってかつてよりも成績のハードルが高くなった。育英会時代は家計重視だったが、機構になってから機械的に切り捨てられているのではないか」と指摘している。