『朝日新聞』2007年9月18日付

大学スポーツ考(6) 国立大、地域密着を重視


大学間の厳しい競争は国立大にも及ぶ。「いまは東大でさえ、地方出張して大学説明会を開く時代。安閑としていられない。積極的にアピールしていかないと」。東京学芸大の渡辺健治・副学長は言う。

04年4月、独立行政法人化のタイミングに合わせて「学芸大クラブ」を設立した。スポーツを効果的なアピール手段と考えているからだ。大学とJリーグのFC東京、小金井市の3者が連携し、運営する。

年間16回、小学生を対象にしたサッカー教室を開き、大学サッカー部とFC東京のコーチらが指導にあたる。地元の子供たちが参加するサッカー大会「学長杯」もある。会場は、FC東京が大学に寄付したキャンパス内の人工芝グラウンドだ。陸上教室やジョギング教室もある。

Jリーグの理念でもある「地域密着」はいま、国立大の評価につながる重要な指標にもなった。渡辺副学長は「この3年で、大学に対する以前の硬いイメージが大きく変わったと思う。地域に根ざしていることが理解されれば、全国から安心して受験生に来てもらえる」と期待する。

横浜国立大は、05年末にNPO法人「YNUスポーツアカデミー(YNUS)」を設立した。運動部員のほか、OBやOG、教職員らがボランティアでスポーツ教室や健康講座に携わる。

昨年4月に始まった「YNUSキッズ柔道クラブ」はその一環。発足時には、アテネ五輪男子100キロ超級金メダリストの鈴木桂治(平成管財)や全日本男子の斉藤仁監督らを招く力の入れようだ。

クラブには、6〜12歳の約20人が参加。大学柔道部が練習する隣で毎週3回けいこに励む。横浜市内から通う高梨岬さん(10)は「体が柔らかくなり、体育が好きになった」。母の澄子さん(38)は「今まで全く縁がなかった大学だったけど、体力がついて風邪をひきにくくなった」と喜ぶ。指導する大学の部員やOBはメーリングリストをつくって人繰りをつけている。

柔道部長を務める教育人間科学部の木村昌彦教授は「大学には施設と人材がある。生き残るにはそれらを利用し、社会に還元していくことが大事。地域に密着した活動は、時代の流れ」と話している。