『MRI TODAY』2007年2月21日付

世界の宇宙開発はどこへ進もうとしているのか?


三菱総合研究所
科学技術研究本部 主任研究員

小池 学

旧ソ連が人類初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げた1957年から数えて今年は50年の節目の年にあたる。半世紀をかけ進められてきた世界の宇宙開発は、今、大きな岐路に立たされているように思われる。

米国では、スペースシャトルの2010年での退役が決定された。また、既に20年以上の期間と約10兆円とも言われる莫大な費用を費やしてきた国際宇宙ステーション計画の大幅縮小が発表された。その一方で、昨年発表された米国新宇宙政策は、宇宙開発を国家安全保障の基盤技術とする姿勢が前面に打ち出されたものとなっている。

こうした中、2007年1月、中国による衛星破壊実験のニュースが世界を震撼させた。衛星攻撃兵器(ASAT:Anti-SATellite Weapon)の発想自体は古く、1960年代には米ソを中心に研究開発が進められたが、1967年に締結された宇宙条約を契機に各国は自粛し、現在はモラトリアムの状態が続いていた。衛星破壊によって発生するスペースデブリ(宇宙ゴミ)の問題と際限のない軍拡競争に陥る可能性が懸念されたためである。今回の中国の行動に対して、米国やイスラエルは直ちに強い反応を示し、一気に宇宙軍拡へ進むシナリオが浮上している。

今、我が国では、「宇宙基本法」の成立に向けた動きが活発化している。宇宙の「平和利用」を「非軍事」とした従来の解釈から、他国と同様に「非侵略」に見直すことが一つの大きな柱である。加えて、宇宙戦略を策定する中央組織の設置を目指している。混迷する時代であるから、なおさら、確固たる国家戦略に基づく宇宙開発の推進が必要不可欠であると考える。


* 「非軍事」: 軍事的な利用を排除するもの。
 「非侵略」: 軍事的な活動であっても侵略的な活動に当たらなければ、軍事活動であっても平和活動と認められるというもの。