『MRI TODAY』2006年12月11日付

軸足を「国家安全保障」に戻す米国の宇宙政策


三菱総合研究所
科学技術研究本部 主任研究員

羽生哲也

2006年10月、米国政府より、10年ぶりとなる新たな国家宇宙政策が発表された。前回、クリントン政権時に発表された同政策(1996年)と比較して、おおよその構成等は踏襲しているものの、国の優先順位の第一として、「国家安全保障」のための宇宙開発をより強調した政策文書として仕上がっている。

筆者がみるところ、本政策の要点は、
1) ここ数年は国家の最優先事項として、国家・国土安全保障のために宇宙活動を積極的に利活用していくこと
2) 米国が保有すべき先端科学技術基盤の国際的地位について、ここでてこ入れしてもう一度揺るぎないものにしようとする強い国家意志の現れ
ではないかと思う。

特に2)については、市場原理に基づく商業活動に軸足をおいていたのでは宇宙開発技術はいずれ衰退するという政策判断、欧州等諸国との技術競争の激化、それに加え中国やインドといった新興国が急速に表舞台に立ち始めたことへの危機感等が背景として推測できる。すなわち、まだまだ絶対的な差はあるものの、スペースシャトル運用等に米国の宇宙開発の努力が集中している間に、随分と遅れていたはずの他国の技術・活動レベルが米国に追いつきつつある状況が、米国にとってもはや看過できないということであろう。

また、米国の政策は、圧倒的なトップダウンの形をとっており、「○○省は○○分野の活動について責任を持ちなさい」といったことや、「米国は今後○○の活動に注力していく」等を、大統領令として関係省庁や機関に対して指示していることが特徴である。宇宙開発は、国の基盤を維持するための重要な技術力(時には外交力)のひとつであり、この計画の是非をボトムアップ的思想で議論することの限界も指摘されている。俯瞰(ふかん)的な物の見方で国の進むべき方向を示す羅針盤が必要と思う。

翻って我が国の宇宙政策を見ると、2006年現在、内閣府に「宇宙戦略本部」の設置を含む宇宙基本法案の議論が与党内で行われている。情勢の変化に対応した国家戦略の構築が求められる。