『MRI TODAY』2006年8月22日付

舵を切れるか、日本の宇宙開発利用


三菱総合研究所
科学技術研究本部 主任研究員

羽生哲也

本年5月、自由民主党宇宙開発特別委員会において、「安全保障」、「産業振興」、「研究開発」を柱とした総合的な宇宙開発利用の国家戦略を構築すべく「宇宙基本法案」がまとめられた。同党は早ければ、今秋の通常国会において審議する考えである。これは、国民の安全・安心への脅威を監視する手段として、安全保障の分野でも積極的に衛星を使えるようにしようという政治的イニシアティブである。

我が国では、1969年の宇宙の平和利用に関する国会決議に基づき、宇宙開発利用は「平和の目的に限り」とされ、この基本方針を「厳格に」解釈し遂行してきた。また、1990年の日米間の衛星調達に関わる合意により、重点が研究開発を目的とした衛星開発に置かれてきたという背景がある。研究者のための宇宙開発にとどまらず、より具体的な社会の要請に呼応する宇宙開発に向けて効率的な利活用の推進を行うためには、情勢の変化に対応した国家戦略の構築が求められる。

折しも7月5日未明には北朝鮮によりミサイルが複数発射され、日本海沖に着弾するという事件も起き、我が国のみならず国際社会を騒然とさせた。頻発するテロ等の国際社会を揺るがす事件・事故、そして大規模災害発生等に対して、宇宙からの監視は有効な手段となりうる。