『山陰中央新報』論説 2007年9月7日付

医学部定員増/特効薬になりそうもない


二〇〇八年度から全都府県で医学部の定員を最大で各五人ずつ、北海道では十五人増やすことが決まった。政府・与党が五月に発表した緊急医師確保対策の一環で、医学部定員は最大で計二百四十五人増える。

この定員増とは別に医師不足が深刻な青森、岩手など十県と自治医大(栃木)で、〇八年度から各十人までの定員増を認めており、新入生の定員枠は最大で計三百五十五人増となる。増えた「地域枠」の学生は奨学金など自治体の支援を受け、卒業後は一定期間、地元で働くことが義務付けられる。

しかし定員増は医師不足解消の特効薬とはなりそうもない。まず来年の新入生が六年間の医学部教育、二年間の臨床研修を経て、経験を積み地域医療を支える一人前の医師となるまでには十年以上はかかる。

医師確保の緊急対策とともに、長期的視点に立って地域が医師を育てていく態勢が必要だ。現在の医師数は約二十六万人で、退職などを引くと毎年三千五百―四千人ずつ医師は増えている。にもかかわらず、地方の病院勤務医や産科、小児科など特定診療科の医師が不足してきた。

要因の一つに国の医師需給見通しの誤算があったといえる。一九七〇年当時の医学部定員総数は約四千三百人。必要な医師数を満たすために七〇年代に「一県一医科大」構想が進められ、八一年時点で定員は八千三百六十人と倍近くに増えた。

八四年に設置された「医師需給の検討会」は「将来の医師数過剰を防ぐために医師の新規参入削減が必要」とする意見をまとめ、九五年には定員が約七千七百人まで減少した。政府は九七年六月の閣議決定で、医学部定員の削減方針を確認、その後も定員は約七千七百人で推移している。

二〇〇六年二月に設置された新たな検討会は同年七月の報告書で、二二年に医師数は需要と供給が一致すると推計。一方で現在地域に必要な医師を確保する対策を求め、医学部定員の暫定的調整も必要とした。〇八年度からの定員増はこの報告書に沿ったものだが、後手に回った感は否めない。

特に病院の勤務医が足りないとされる背景には、従来より医療に人手と時間がかかるようになったことがある。

治療そのものの高度化、患者への十分な説明と同意(インフォームドコンセント)の徹底、医療事故防止対策強化など医師数が同じでも一人当たりの業務が増えた。出産・育児の休暇期間がある女性医師も増えた。結果的に病院の勤務実態が過酷になり、勤務医が減る悪循環が起きているという。

厚生労働省は〇八年度予算概算要求に勤務医の勤務環境改善、女性医師が働きやすい環境整備などを盛り込んだ。具体的には各都道府県が作成する〇八年度からの地域医療計画で、いかに地域の特性に応じた効果的な医師確保態勢をつくれるかにかかってくる。

離島の多い長崎県では約五十年前から県が医師養成・支援に力を入れ、一九七〇年代に二十数人だった離島で働く医師が、現在は百人に上る。国、大学と自治体、さらに住民の連携が地域を支える医師を育てることは間違いない。