データに基づく分析と検討は国立大学危機打開の不可欠の基礎作業:全大教教研集会に向けて分析・検討の大きな流れを

2007年8月31日 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局


1.経済財政諮問会議―教育再生会議路線か,それに代わる路線を作り上げるのかの分岐点となる2007年度

国立大学,とりわけ地方国立大学や小規模の文科系単科大学,教員養成系大学などは財政面においてかつてない困難な事態に直面している.現在の運営費交付金の総額逓減方式が続く限り,大学の基盤を支える経費は年々先細りになり,国立大学そのものが成り立たなくなってしまうことは明らかである.今年にはいってから経済財政諮問会議や財務省などから強く主張された国立大学の運営費交付金の配分に競争主義を持ち込み,選択と集中化を進めるという方針もその解決策の一つにほかならない.国立大関係者や地方自治体からの強い反発などがあり,6月19日の「経済財政改革の基本方針2007」の議決定で来年度の競争主義導入は見送られたが,運営費交付金の配分法は今年度中をめどに配分方式の方向を明らかにすることになった.その議論の場となる教育再生会議も,6月1日に発表された第二次報告の内容を見ると経済財政諮問会議などの路線に屈服し,国立大学運営費交付金配分の際限ない競争主義化と大規模な再編統合への道を開く役割を担っていると評価せざるをえない.「競争主義導入による選択と集中の強化」という政府や財界の方針が変わったわけではなく,文科省も受け入れざるを得ない状況になっていることを忘れてはならない.

一方で,次期中期目標期間中の運営費交付金を大きく左右する第一期中期目標期間の最終評価は,今年度を最終とする暫定評価で事実上決まるとされている.したがって,各大学の執行部は今年度中に目標を達成し,教育研究実績を積み上げるようなりふり構わぬ学内運営を行うことになるだろう.相対評価が加わることから,大学間の競争が過熱する恐れがある.目先の評価対策にだけ集中すると,各大学は分断され,結果的には経済財政諮問会議―教育再生会議の進める「選択と集中」を一層強化させる方向に作用することは間違いない.

今私たちに求められているのは,法人化の検証を進め,国立大学にふさわしい制度の在り方を構築することである.

2.臨時国会における運営費交付金制度の根本的検討と通常国会における来年度予算の組み替えを

国立大学法人法案の審議の際の国会での議論や附帯決議を踏まえれば,第一期中期目標期間が折り返しを過ぎ,第二期の議論を開始しようという段階で,国会で現状の総括と附帯決議が守られているかの検討を行う必要があることは明らかである.国大協は8月8日付で,運営費交付金毎年1%削減の見直し,附属病院の経営改善係数の見直し,施設設備費の充実の3点を内容とする要望書を提出した.要望書の内容に大きな異論はないが,単純な運営費交付金の増額だけで事態が抜本的に改善されるわけではなく,国立大学の財政システムをより根本に立ち返って検討する必要があるとわれわれは考えている.9月から始まる臨時国会において国政調査権も発動させて国立大学の現状を事実をもって明らかにさせ,財政システムのより根底的な検討をするならば,通常国会における来年度予算の組み替えへと情勢を大きく転換させていく展望が切り開かれよう.とりわけ7月の参議院選挙で大幅な与野党逆転が生じた参議院における徹底した審議は局面の転換に大きく寄与しよう.

3.9月の全大教教研集会は分析と検討の場として最適

上記のような情勢の転換を実現するためには,当事者たる我々が,国立大学の現実を事実でもって明らかにする作業が不可欠である.9月22日〜24日に京都大学において開催される全大教教研集会は,タイミングの点からもこうした作業にとって最適の場である.集会の詳細は全大教のHP(http://zendaikyo.or.jp/kousin/katudou/07-08kyouken19.pdf)を参照されたい.様々なテーマの分科会が開催されるが,A3の分科会「大学・高等教育の危機の実態と打開の方向」は,大学を覆う危機の実態を多面的に明らかにし,その打開へ向けて議論を行う内容となっている.

本事務局としては,この分科会が国立大学法人化の現実をつぶさに検証し,その打開策を議論するにふさわしい場であると考え,以下のような行動を提起したい.

(1)全大教教研集会のA3分科会でそれぞれの大学の実態分析のレポートを出そう.非加盟の組合にも参加とレポート提出を期待する.締切は9月7日.
(2)レポート提出が難しい場合でも,各大学,あるいは学部,研究室,さらには一人一人の教員単位で,研究教育に使える大学予算が法人化以前と比較してどのように変化したのかを示すデータを持ち寄っていただきたい.電子媒体で持ってきていただければ,その場でデータ交換ができ,非常に有効である.
(3)各大学での再編統合に向けた動きがあれば持ち寄っていただきたい.

教研集会で集約されたデータとその分析結果を広く社会に示し,臨時国会を突き動かして,運営費交付金制度の抜本的改善,そして増額のための来年度予算組み替えへの大きな流れを作り出そう.