『産経新聞』2007年4月13日付

宇宙基本法 商業分野への進出で産業育成


安全保障分野での宇宙利用促進を狙った「宇宙基本法案」(仮称)の今国会提出が自民、公明両党間で協議されているが、この法案の隠れたもう1つの狙いは「宇宙産業の振興」だ。宇宙基本法が制定されれば、科学技術分野に特化している宇宙開発を商業分野に広げ、国際競争力のある企業を育成するため、政府による資金や制度面での援助が可能になるだけに産業界も注目している。(政治部 田中靖人)

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「はやぶさ」が地球から2億9000万キロ離れた小惑星イトカワへの着陸に成功するなど、宇宙研究の分野で日本の評価は高い。だが、商業分野では影が薄い。通信・放送衛星やカーナビに用いる測位衛星などの商業用衛星では、日本企業のシェアは事実上ゼロ。自民党の河村建夫政調会長代理は「自動車業界に例えれば、最速のF1用レーシングカーばかり追求し、実用車を作っていないようなものだ」と指摘する。

日本企業の商業分野への進出が阻まれている最大の原因は1990年の「日米衛星調達合意」。米国は貿易赤字解消のため、日本政府にスーパーコンピューターなどの購入を迫るとともに、人工衛星を調達する際も国際入札を行うように要求した。これにより、政府が国内企業に優先発注できるのは、研究開発用衛星に限定された。国内企業育成の芽が摘まれ、宇宙開発の基本技術分野の研究も下火となった。

国際的には、宇宙開発研究や商業化に対する政府の強力な援助は常識。米国では1998年に「商業宇宙法」を制定し、国内宇宙産業の保護と競争力強化を強力に推し進めた。2004年の米国の宇宙開発予算は1兆6600億円で、日本の約6倍。加えてさらに巨額の国防予算が宇宙産業を支えている。欧州15カ国が参加する欧州宇宙機関(ESA)は「アリアンロケット」の開発から商用打ち上げまで一貫して財政支援を続けている。

一方、日本政府の宇宙開発関連予算は平成14年度で約3000億円、18年度には約2500億円に減額された。これに伴い、宇宙産業に携わる従業員数も約9000人(9年)から5840人(15年)に減った。首相の諮問機関「総合科学技術会議」は14年に「技術基盤の維持すら困難な状況」と指摘している。

こうした反省から、今回の宇宙基本法案の骨子案では、基本理念に「産業の振興」を明記した。さらに政府に人材確保に必要な政策を行う義務を課し、政府が民間事業者が提供するサービスの長期・大口の顧客となる「アンカーテナント制」の導入を盛り込んだ。

宇宙基本法が制定されれば、国は法案に基づき基本計画を策定し、さまざまな技術研究や開発事業を官民一体で進めることができるようになる。

また、宇宙開発に関するもう一つの“足かせ”である昭和44年に採択された「宇宙の平和利用に関する国会決議」を無効化することができる。この決議が宇宙開発を「非軍事」に限定したため、その後の研究開発は厳しい制約を受けてきた。宇宙基本法では、宇宙開発目的を「非侵略」に変える方針。これにより国会決議を事実上塗り替えることができるわけだ。




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