『産経新聞』主張 2007年6月20日付

【主張】宇宙基本法 実効性ある利用の論議を


宇宙技術を国の安全保障や危機管理に効果的に活用できるようにするための内容を盛り込んだ「宇宙基本法案」が自民、公明両党によって今国会に提出される。

日本には宇宙開発について定めた法律がないので、これから重要度を増していく宇宙の利用に備えようという考えだ。

国会審議を通じて将来に資する基本法を目指してもらいたい。

これまでの日本の宇宙開発は、国連で採択された「宇宙条約」と昭和44年の「国会決議」をよりどころにして進められてきた。宇宙条約は、月などの天体や宇宙空間の探査、利用に関する国家活動について定めた内容である。国会決議は、日本の宇宙開発を平和目的に限定した決定だ。

じつは、この国会決議によって、過去の一時期には自衛隊の通信衛星利用さえ問題視されたこともある。さらには、この決議が現在も踏襲されているために、北朝鮮のミサイルからわが国を守るための情報収集衛星の打ち上げにも、さまざまな制約が課せられているのが現実だ。

宇宙の純平和利用は理想だが、国会決議がなされた38年前とは国際情勢が大きく変化している。現実的に機能する法律を制定しなければ自縄自縛となってしまい、かえって国民の平和と安全を損なう危険を招きかねない。

自民党を中心にまとめられたこの法案では、防衛省・自衛隊が識別能力の高い偵察衛星の開発にかかわり、運用することも可能になるだろう。内閣に首相を本部長とする「宇宙戦略本部」を設置して、総合的な宇宙基本計画を策定することになる。

日本の宇宙開発は、これまでの研究開発中心から、安全保障や外交政策をはじめ、宇宙関連の産業振興にまで間口を広げようとしている。現在では不可能な自衛隊員の宇宙飛行士にも道が開けていくだろう。

宇宙基本法によって日本の宇宙開発は現実に即したものに近づくが、安全保障の名目で、非公開項目が拡大されるようなことがあってはならない。失敗を含めて国民に正しい情報を伝える努力を続けることが肝要だ。

科学研究の予算と自由度を圧迫しない施策も求められる。研究の夢が薄らぐと次代の宇宙科学者が育たない。